一般不妊

2022.05.17

タイミング指導・人工授精治療に夫婦のうつ状態は影響を与える?(Fertil Steril. 2018)

はじめに

母親のうつ病、抗うつ薬の使用、父親のうつ病が、体外受精以外の不妊治療の妊娠転帰に影響するかどうかを調査した報告です。

ポイント

タイミング指導・人工授精治療において、女性のうつ病は妊娠成績に大きな影響を与えないようです。非SSRI抗うつ薬を内服している女性では妊娠初期流産が軽度増加する傾向があります。男性のうつ病は妊娠成績に影響を与える可能性があります。

引用文献

Emily A Evans-Hoeker, et al. Fertil Steril. 2018. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.029.

論文内容

2つの無作為化試験PPCOS II(PCOSに対するクエン酸クロミフェン vs. レトロゾール)と(原因不明不妊に対するゴナドトロピン vs. クエン酸クロミフェン vs. レトロゾール)に対して行ったコホート研究です。
女性および男性パートナーがPatient Health Questionnaire(PHQ-9)を記入し、女性の薬物使用状況も収集しました。PHQ-9スコアが10以上であれば、活動中のうつ病と判断しました。評価項目は出生率とし、副次評価項目は妊娠、妊娠初期流産としました。年齢、人種、収入、妊娠を試みた期間、喫煙、研究(PPCOS II vs. AMIGOS)を調整後の相対リスクを決定するためにポアソン回帰モデルが使用されました。

結果

女性1,650名、男性1,608名のデータを解析しました。抗うつ剤を使用していない女性では、活動中のうつ病は、より悪い妊娠成績(出生率、妊娠初期流産)と関連せず、むしろ妊娠可能性をわずかに増加させることと関連していました。女性の抗うつ薬使用(n = 90)は妊娠初期流産リスクの増加と関連し、活動中のうつ病の男性パートナーは妊娠成績の低下と関連していました。

PPCOS II
PCOS 750組のカップル(女性は年齢18-40歳、PCOS以外の不妊原因が明確ではなく、男性パートナーの精子濃度1400万/mL以上)を対象に、排卵誘発のためにクエン酸クロミフェンまたはレトロゾールのいずれかの治療に無作為に割り付けられた試験。

AMIGOS
原因不明不妊 900組のカップル(女性年齢18〜40歳、男性パートナーの精子濃度が500万/mL以上)を対象に、排卵誘発のためにゴナドトロピン、クエン酸クロミフェン、レトロゾールによるIUIに無作為に割り付けられた試験。

PHQ-9
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th editionの9つのうつ病基準を0(全くない)から3(ほぼ毎日)でスコア化する有効な自記式質問票。標準的なMental Health Professional Interviewと比較すると、PHQ-9スコア≧10はMDの感度88%、特異度88%。PHQ-9のスコアが5、10、15、20の場合、それぞれ軽度、中等度、中重度、重度のうつ病を表すとされています。

私見

抗うつ薬の使用は過去の報告でも妊娠初期流産の上昇との関連が示唆されています(Almeida ND, et al. Epidemiology 2016)が、非SSRI抗うつ薬の場合としている報告が複数あります。抗うつ剤によっては、薬の急激な中止がうつ症状の悪化を招く恐れもあるため、心療内科・精神科の医師と相談の上、慎重な投与が好ましいと思います。自己判断での中断は決して行わないでください。
妊娠初期にカップルが向き合う不安は体調変化も伴うため、予想以上のストレスとなることが多く、不安を煽るのではなく受診間隔を短めに設定するなどtender loving careが望ましいのかもしれません。
男性パートナーにうつ病がある場合、性交頻度が減少すること、精子濃度、運動率、形態、DNA損傷などの精子パラメータに悪影響を及ぼす可能性もあります。抗うつ薬との関連報告も出てきていますので、しっかりフォローしていこうと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 影響する薬剤など

# 心理的素因

# 流産、死産

# 人工授精

# 妊娠高血圧症候群

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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