はじめに
葉酸は細胞内の様々な核酸やタンパク質の合成を促進します。生殖分野では、葉酸不足は神経管欠損との関連が有名ですが、そのほかにも葉酸代謝は卵巣機能、着床、胚形成、および妊娠の全過程に影響するともされています。いくつかの研究で、葉酸代謝異常は、子宮内膜症、反復流産、高ホモシステインなど、不妊症の高いリスクと関連していることが報告されています。葉酸代謝異常を引き起こすMTHFR C677T遺伝子多型と卵巣刺激の関係を比較した報告をご紹介いたします。
ポイント
MTHFR C677T遺伝子のバリアントは体外受精に大きな影響をもたらしませんでしたが、ロング法の卵巣刺激のFSH値とは関連がありました。MTHFR C677T遺伝子のバリアントは卵巣刺激に関しては、そこまで気にしなくてもいい印象です。
引用文献
Shuangshuang Zeng, et al. Fertil Steril. 2019. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.016
論文内容
4,517名の日本人のMTHFR遺伝子型に関する以前の研究では、C677T多型 CC型、CT型、TT型がそれぞれ39.0%、45.6%、15.4%で観察されています。本研究は中国で実施されたMTHFR C677T遺伝子多型と卵巣刺激の関連を比較した後方視的研究です。
722名の不妊症女性を対象としました。卵巣刺激はロング法症例に限定し、前周期黄体中期にGnRHa注射を実施し、月経開始時からFSH製剤150単位で卵巣刺激を開始し、トリガーはhCG 5,000-10,000単位で実施しました。体外受精に関わる臨床結果を評価対象としています。
結果
TT群女性の基礎FSH値はCC群女性よりも有意に高値であり、ダウンレギュレーション後のFSH値はCC/CT群女性より高値でした。TT型女性は、GnRHアゴニストとFSH総投与量がCC/CT型女性と比較して有意に多く、hCG総投与量は、CT型女性がCC/TT型女性と比較して多くなっていました。基礎FSH値は、AFCおよび回収卵子数と負の相関があり、また、ダウンレギュレーションFSH値は、成熟卵数、回収卵子数と相関がありました。
私見
この報告でのMTHFR遺伝子C677Tバリアント頻度はCC型42.66%(n=308)、CT型44.18%(n=319)、TT型13.16%(n=95)でした。日本人での解析ではCC型、CT型、TT型がそれぞれ39.0%、45.6%、15.4%でしたので、日本・中国ではほぼ同じ比率ですね。
この論文では基礎FSH値、ダウンレギュレーション後FSH値とMTHFR遺伝子C677Tバリアントが関係したとしていますが、AMHとの関係はありません。卵巣予備能との関係はなさそうですね。卵巣刺激結果にはMTHFR遺伝子C677Tバリアントは今のところ、関連は乏しいという結論で良い気もします。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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