体外受精

2022.06.20

卵胞サイズは採卵後の生殖成績に影響する?( Fertil Steril. 2022)

はじめに

卵巣刺激を行うと、発育卵胞にサイズ差が発生します。どの卵胞に合わせて採卵日を決めるか迷うことが多々あります。今回の論文は、採卵時の卵胞サイズごとに採卵後の成績を分類した報告です。

ポイント

小さめの卵胞では、採卵時の卵胞サイズが大きくなるにつれて、卵胞穿刺あたりの良好胚盤胞率が増加し直径19mmでピークに達します。卵胞穿刺あたりの良好胚盤胞率が最も高いのは19-24.5mmの卵胞(0.175-0.189)で、25mm以上の卵胞(0.159-0.160)でも良好胚盤胞率は安定していました。9.5mm以下の小さい卵胞の穿刺はほとんど意味がなく、卵胞穿刺あたりの良好胚盤胞率は約2%でした。

引用文献

Bruce S Shapiro, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.02.017

論文内容

157症例の採卵時の卵胞直径ごとに卵胞あたりの回収率、胚発生率などを検討しました。女性年齢33.5±6.1歳、BMI 24.7±4.9、AMH 4.6±4.8ng/mL、FSHアンタゴニスト法にてhCG/GnRHaにてトリガー、34-35時間後に採卵を実施しています。回収卵子が15.0±9.0個、成熟卵子数が11.3±7.3個での採卵での成績となります。培養液はsingle step mediumで集団培養しています。卵胞径により8群に分類しました(≦9.5、10~12.5、13~15.5、16~18.5、19~21.5、22~24.5、25~27.5、28mm以上)。

結果

157症例4,539個の卵胞穿刺、2,348個回収卵子、1,772個成熟卵子、1,258個正常受精、571個良質胚盤胞が得られました。穿刺した卵胞あたりの良質の胚盤胞の割合は、2.2%(≦9.5mm)、6.2%(10-12.5mm)、11.9%(13-15.5mm)、14.5%(16-18.5mm)、18.9%(19-21.5mm)、17.5%(22-24.5mm)、15.9%(25-27.5mm)、16.0%(28mm以上)でした。
全体平均と比較すると、12.5mm以下の卵胞穿刺は良質胚盤胞率が劣り、直径19~24.5mmの卵胞穿刺は良質胚盤胞率が良好でした。その他の群では差は認められませんでした。卵胞径と胚盤胞の着床前診断の正倍数性率は関係がありませんでした。

表1:穿刺卵胞サイズあたりの胚盤胞生検あたりの正常核型割合
穿刺時卵胞サイズ胚盤胞生検数正常核型率
≤ 9.5125 (41.7)
10.0–12.53217 (53.1)
13.0–15.55129 (56.9)
16.0–18.57142 (59.2)
19.0–21.57539 (52.0)
22.0–24.55221 (40.4)
25.0–27.51510 (66.7)
≥ 28106 (60.0)
全体318169 (53.1)

表2:穿刺卵胞サイズあたりの生殖医療成績
穿刺時卵胞サイズ胚盤胞生検数回収卵子数(穿刺卵胞あたり)成熟卵子数(穿刺卵胞あたり)(卵子あたり)正常受精数(穿刺卵胞あたり)(成熟卵子あたり)良好胚盤胞数(穿刺卵胞あたり)(正常受精数あたり)
≤ 9.54951520.307690.1390.454450.0910.652110.0220.244
10–12.57303290.4511830.2510.5561400.1920.765450.0620.321
13–15.57713950.5122790.3620.7062120.2750.76920.1190.434
16–18.58955100.574150.4540.8143000.3350.7231300.1450.433
19–21.57514670.6223980.530.8522750.3660.6911420.1890.516
22–24.55273010.5712690.510.8941800.3420.669920.1750.511
25–27.52391240.5191010.4230.815710.2970.703380.1590.535
≥ 28131700.534580.4430.829350.2670.603210.160.6
All4,5392,3480.5171,7720.390.7551,2580.2770.715710.1260.454

Note: M2 = metaphase 2; 2pn = bipronuclear; PPF = per punctured follicle.

私見

小卵胞でもよい胚がとれると聞きましたと患者様から質問を受けることがあります。卵巣刺激をして大きなサイズと小さいサイズが混在する小卵胞穿刺の成績と、卵巣刺激をほとんどせずに小さいサイズを穿刺するのとは異なります。また年齢によっても適切な卵胞サイズは異なると思います。BMI 25のカットオフでは成績には差がありませんでした。
ただ、今まで、卵巣刺激を実施した際の小卵胞成績を示す報告があるようでありませんでした。この成績をみると採卵日を迷ったら、ちゃんと管理した状態なら後ろに伸ばしたほうがよいという成績のように感じてしまいます。高齢女性での成績を期待したいところです。
この論文は本当に素晴らしいですね。臨床医でも医療に貢献するとは、このような論文を指すのだと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 採卵

# 胚盤胞

# 卵巣刺激

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

内膜症性卵巣嚢胞患者に対する手術前受精胚凍結保存(Reprod Med Biol. 2025)

2025.10.13

ICSI周期における未熟卵割合と胚発生・出生率の関連(Hum Reprod. 2025)

2025.09.30

1PN由来胚の臨床的価値の再評価(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.15

男性不妊がない患者におけるIVF vs ICSI:無作為化試験(Nat Med. 2025)

2025.06.06

受精卵・胚の形態評価に関する改訂ESHRE/ALPHAコンセンサス(Hum Reprod. 2025)

2025.05.23

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

40歳以上ドナー卵子による妊娠転帰(Hum Reprod. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

2025.10.29

妊活における 痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)(Fertil Steril. 2024)

2025.10.29

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

2025.08.20