治療予後・その他

2023.03.15

若年がんサバイバーの治療後、妊活を始める方の特徴(Fertil Steril. 2023)

はじめに

若年がん患者さまと妊孕性温存のカウンセリングを行った時に、話題にあがるのは、どの程度の方が妊孕性温存を行うか、利用率はどうか、その後の妊娠するかたはいるかなどです。アメリカで行われた若年がんサバイバーの治療後、妊活を始める方の特徴についてのオンライン調査をご紹介いたします。

ポイント

若年がんサバイバーで、がん治療寛解後に妊活を始めている方の特徴は、妊孕性温存治療を行っていること、診断時の年齢が若いこと、診断からの期間が長いこと、パートナーがいること(診断時または調査時)、がん診断前に不妊治療歴があることなどでした。

引用文献

Chelsea Anderson, et al. Fertil Steril. 2023 Mar;119(3):475-483. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.024.

論文内容

がん種や治療種類を含めた患者背景、医療従事者との妊孕性についての話し合いや妊孕性温存の利用などが若年がんサバイバーの治療後に妊活を始める割合と関連があるかどうか調査した横断的なオンライン調査です。2004年から2016年に15~39歳でリンパ腫、乳がん、甲状腺がん、婦人科がんと診断された女性を、アメリカの3地域の医療システムから同定しオンラインアンケートを行いました。内容として、患者背景、がん種、がん診断からがん治療を開始するまでの間に医療機関または生殖医療専門家と行った生殖能力カウンセリング、がん診断後の妊孕性温存治療(胚/卵子)の使用についてです。主要評価項目は、がん診断後の妊活をおこなったかどうか(妊娠、または妊娠せずに12ヵ月間妊娠を試みた場合のどちらかで定義)としました。

結果

がん診断時に欲しい子供の人数に達していなかった801名のうち、77%ががん診断から治療開始までに妊孕性に関する話し合いを医療機関で持ち、8%が妊孕性温存治療(胚/卵子)を行っていました。調査時(診断後中央値7年、四分位範囲4~10年)には、32%が妊活を行なっていました。医療機関における妊孕性についての話し合いや不妊治療専門医によるカウンセリングは、妊活の有無と関連はしていませんでした。妊孕性温存治療実施は妊活の有無と関連していました(prevalence ratio 1.74, 95% CI:1.31-2.32)。妊活の有無とは他に、診断時の年齢が若いこと、診断からの期間が長いこと、パートナーがいること(診断時または調査時)、がん診断前に不妊治療歴があることなどが関係していました。

私見

がんサバイバーでの治療に対する取り組みは、がん種などを含めた患者背景に影響を強く受けます。今回の検討では、がん診断時の女性年齢 中央値 32歳(27-36歳)であり、妊娠前に子供がいない患者が59%、不妊治療経験は15%、がん種(甲状腺 30%、婦人科 15%、乳がん 39%、リンパ腫 16%)でした。今回の調査では、がん診断時に妊娠について行なった話し合いは、妊活実施の有無と無関係だったという結果に終わりましたが、情報提供を適応のある女性全員にという観点からは正しい方向性なのかなと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# がんと生殖医療

# 妊孕性温存

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

2025.07.21

BRCA遺伝子変異と卵巣予備能(Fertil Steril. 2025)

2025.05.15

甲状腺がん治療が生殖補助医療成績に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2021)

2025.03.31

子宮体がん初期の妊孕性温存治療についてのメタアナリシス(Am J Obstet Gynecol. 2024)

2025.01.16

12歳以降のPOI女児に妊孕性温存目的卵子凍結は可能(J Assist Reprod Genet. 2023)

2023.11.24

治療予後・その他の人気記事

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

凍結卵子を使用しない場合の対応に伴う意思決定(Fertil Steril. 2023) 

2023.05.26

妊娠高血圧腎症予防にアスピリンの使用方法は?(Am J Obstet Gynecol. 2023)

2023.08.10

妊娠糖尿病既往ぽっちゃり女性は減量が再発予防に効果的(Am J Obstet Gynecol. 2023)

2023.05.23

社会的卵子凍結の実施有無に対する後悔リスク(J Assist Reprod Genet. 2023)

自然妊娠・体外受精妊娠では、妊娠中の不安は同程度?(Hum Reprod. 2023)

今月の人気記事

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

肥満PCOS女性における単一正倍数性胚盤胞移植の妊娠転帰(Fertil Steril. 2025)

2025.10.01

子宮内膜厚と出生率の関連:米国SARTレジストリ研究(Fertil Steril. 2025)

2025.10.03

男性不妊症とExome sequencing (Eur Urol. 2025)

2025.10.04

ICSI周期における未熟卵割合と胚発生・出生率の関連(Hum Reprod. 2025)

2025.09.30