一般不妊

2023.06.27

内腔圧排ない子宮筋腫の体外受精への影響(Fertil Steril. 2023)

はじめに

内腔圧排ない子宮筋腫の体外受精への影響は2001年から2020年までに8件のメタアナリシスが報告されており、6件が悪影響、2件が影響なしとしています。 2023年のメタアナリシスをご紹介いたします。 

ポイント

2cm以下の内腔圧排ない子宮筋腫は体外受精成績に影響を及ぼさないようですが、それ以上の大きさの場合は体外受精成績に影響を与える可能性があります。手術によって治療成績が改善するかどうかはわかっていません。 

引用文献

Murat Erden, et al. Fertil Steril. 2023 Jun;119(6):996-1007. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.02.018. 

論文内容

6cm以下の内腔圧排ない子宮筋腫の影響が、子宮筋腫のない女性年齢をマッチさせた対照群と比較して、体外受精における出生率と関連するかどうかを調べたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。 
MEDLINE、Embase、Global Health、Cochrane Libraryのデータベースを2022年7月1日まで検索しました。6cm未満の内腔圧排ない子宮筋腫合併体外受精実施女性(520名)を子宮筋腫群とし、子宮筋腫がない女性(1,392名)を対照群としました。女性年齢をマッチさせたサブグループ解析を行い、大きさ(6cm以下、4cm以下、2cm以下)、部位(FIGO分類タイプ3かどうか)、数などのカットオフが生殖医療結果に及ぼす影響を評価しました。評価指標には、95%CIを含めたマンテル-ヘンゼルオッズ比(OR)を用いました。主要評価項目は出生率、副次的評価項目は臨床的妊娠率、着床率、流産率としました。 

結果

6cm以下の内腔圧排ない子宮筋腫合併体外受精実施女性は出生率が低くなりました(OR:0.48、95%CI:0.36-0.65、3研究、I2=0;低信頼性エビデンス)。4cm以下でも同様の傾向を認めましたが、2cm以下では認められませんでした。2~6cmのFIGO分類3型子宮筋腫は、出生率が低くなりました。研究数が少ないため、筋腫数(単発か多発か)の影響は評価できませんでした。 

私見

この報告も興味深いところは、内腔圧排ない子宮筋腫の体外受精への影響による出生率の減少は、全体的な解析では流産率増加より着床率減少によるものであった点です。質の高い研究のみの感度分析では、出生率の減少は、全体的な解析では流産率増加と着床率減少の両方が認められていますが、着床率の低下は共通している理解です。 
面白い報告が複数引用されています。 

  • 2cm以下の内腔圧排ない子宮筋腫の影響は、子宮筋腫のない女性と比較して、出生率、臨床的妊娠率、着床率、流産率に差がない。
    Yan L, et al.Fertil Steril. 2018; 109: 817-822.e2 
  • FIGO分類3型子宮筋腫は4〜5より着床に悪影響を及ぼす。
    Yan L, et al. Fertil Steril. 2014; 101: 716-721
    Dolmans M.M.et al. Fertil Steril. 2021; 116: 945-958

→上記は今回と同様の結論ですね。 
では、手術はどうかですが、結論はでていません。 ただ、メジャーな報告でいくと、 

  • 4cm以下の内腔圧排ない子宮筋腫は手術をしてもしなくても自然妊娠に差がないとされています。コクランでも引用されて差がないとされていますが、症例数が23症例/22症例の比較のRCTで、妊娠率も56.5%と40.9%で差がつかなかっただけなので、なんとも評価しづらいところです。
    Casini M.L, et al. Gynecol Endocrinol. 2006; 22: 106-109
    Metwally M, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020; 1: CD003857 
  • 2~5cmのFIGO分類3型子宮筋腫摘出を行うと体外受精成績が上昇したというレトロスペクティブ研究があります。
    Han Y, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022; 22: 522 

それ以外では、内腔圧排ない子宮筋腫の体外受精前の手術に対しては賛否が分かれていますし、報告が古いのでなんとも言えないですね。 

成績向上 
レトロスペクティブ研究  
Bulletti C, et al. J Am Assoc Gynecol Laparosc. 1999; 6: 441-445 Campo S, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2003; 110: 215-219  
プロスペクティブ研究  
Bulletti C, et al.Ann N Y Acad Sci. 2004; 1034: 84-92 

成績不変
プロスペクティブ研究  
Aboulghar MM, et al. The effect of intramural fibroids on the outcome of IVF;9:263–267. 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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