はじめに
ERA検査後の個別化胚移植は臨床成績改善につながらないというのが、最近の流れになっています。Fertile window という概念は昔からあり、幾度となく検査法の解釈・診断の難しさから、アドオン検査として有用かどうかは議論の対象となってきました。
一定の患者には良好な結果をもたらすと私は信じていますが、適切な環境で検査を行わないと再現性の乏しい結果を示す可能性もあると思います。ここでは、国内ERA検査実施後の臨床成績における多施設コホート研究をご紹介します。
ポイント
ERA検査後の個別化胚移植成績は、receptive/non-receptive 双方とも同等でした。
引用文献
Yuya Takeshige, et al. Reprod Med Biol. 2023 Nov 29;22(1):e12550. doi: 10.1002/rmb2.12550.
論文内容
日本国内の生殖医療施設11施設においてERA検査を受け、その後2018年1月から2020年12月の間に個別化胚盤胞移植を受けた女性861名を対象とした多施設共同後方視的コホート研究です。妊娠、流産、出生を含む臨床転帰をERAの受容状態に応じて評価しました。
結果
患者の平均年齢は37.7歳(SD = 4.0)、過去の胚移植回数の中央値は2回(四分位範囲、2~3回)でした。患者の41.0%(353/861)がERA検査で non-receptive でした。ERA検査後の個別化胚移植における臨床妊娠率、流産率、出生率は、
- receptive患者:44.5%(226/508)、26.1%(59/226)、26.8%(136/508)
- non-receptive患者:43.1%(152/353)、28.3%(43/152)、28.9%(102/353)
であり、差は認められませんでした。多重ロジスティック回帰分析でも受容能のずれと臨床成績には関連を認めませんでした。
子宮内膜胚受容能と患者背景の関係:
- 年齢が高くなるにつれて non-receptive、特に pre-receptive の割合が増加しました。
- 喫煙は non-receptive の増加と関連。
- 不妊期間は non-receptive の増加と関連。
- 分娩歴は receptive の増加と関連。
関連がなかったのは AMH、BMI、妊娠既往(分娩歴とは異なる)、不妊原因(男性因子・卵管因子・内膜症・PCOS・原因不明)、黄体補充からの時間でした。
私見
年齢とともに pre-receptive の割合が増えるのは興味深い点です。
- 30歳以下: 21.3%(10/47)
- 31~35歳: 32.0%(62/194)
- 36~40歳: 39.4%(153/388)
- 41歳以上: 49.1%(114/232)
Late receptive の割合は年齢とともに減少しました。今回の国内多施設横断研究では non-receptive が41.0%(353/861)でしたが、現在のERAテストでは early receptive が receptive に包括されています。Early receptive の割合は記載されていないため不明ですが、これを除くと non-receptive は20〜30%程度だと思われます。
また limitation にも記載されていましたが、ERA検査後の個別化胚移植では複数胚移植が6.8%、receptive患者では13.4%であり、これらが成績に影響している可能性も否定できません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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