はじめに
HMG製剤による卵巣刺激は、rFSH製剤による卵巣刺激に比べてトリガー時のP4が上昇しないことがわかっています。卵巣刺激時のsteroidogenesisを、24歳代・BMI21前後の卵子提供女性に対するGnRHアンタゴニスト法にて調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
HMG卵巣刺激は、pregnenoloneからandrostenedioneへのΔ4経路を促進します。卵巣反応にかかわらず、HMG卵巣刺激とrFSH卵巣刺激では卵胞ステロイド形成経路が異なるため、トリガー時のプロゲステロン値に差が生じる可能性があります。
引用文献
Ernesto Bosch, et al. Hum Reprod. 2023 Nov 30:dead251. doi: 10.1093/humrep/dead251
論文内容
2016年10月から2018年6月にリクルートされた卵子提供のための卵巣刺激を受けている女性を対象としたGnRHアンタゴニスト法(225IU/日:rFSH(56周期)またはHMG(56周期))によるRCT。
対象は、月経周期が規則的(25~35日)、正常な卵巣予備能(AMH=10~30pMol/l)を有する18~35歳の女性です。FSH、LH、エストラジオール(E2)、エストロン、プロゲステロン、プレグネノロン、17-OH-プロゲステロン、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステンジオン、テストステロンが、刺激1、4、6、8日目およびトリガー日に、血清中および卵胞液中で測定されました。
結果
両群の年齢、BMI、AMHは同等でした。卵巣反応も同様で、rFSH群とHMG群ではそれぞれ回収卵子数17.5±7.9個(平均±SD)vs. 16.5±7.5個でした(P = 0.49)。
トリガー日の血清P4(ng/ml)は、HMG群:0.46±0.27に対し、rFSH群:0.68±0.50でした(P = 0.010)。プロゲステロンの両群の差は刺激6日目および8日目でも有意でした。
プロゲステロン/プレグネノロン比は、刺激8日目からトリガー日までrFSH群で増加しました(P = 0.019)。
トリガー日の血清アンドロステンジオン(ng/ml)は、HMG群:3.0±1.4に対し、rFSH群:2.4±1.1でした(P = 0.015)。アンドロステンジオンの両群の差は、刺激8日目でも有意でした。
アンドロステンジオン/プレグネノロン比は、刺激6日目、8日目およびトリガー日においてHMG群で増加しました(P = 0.012)。
卵胞液E2、FSH、LH、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロステンジオン、テストステロンはrFSH群よりHMG群で増加しました。卵胞液中のプロゲステロン、エストロン、17-OH-プロゲステロン、プレグネノロンには差は認められませんでした。
私見
卵巣刺激に関する報告では、2023年で最も心に残った一本です。
少し複雑なので、自学も含めて別ブログで追記いたします。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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