体外受精

2023.12.04

卵巣反応不良群はART妊娠流産と関連する?(Hum Reprod. 2022)

はじめに

卵巣予備能低下が流産率に関与するかどうかは議論が分かれています。
では、卵巣反応不良群は同年代の正常卵巣反応群と比較して、ART妊娠流産率が上昇するのでしょうか。37歳以下の女性で検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

37歳以下の女性において、卵巣反応不良群はART妊娠流産と関連しなさそうです。

引用文献

M W Christensen, et al. Hum Reprod. 2022 Jul 30;37(8):1856-1870. doi: 10.1093/humrep/deac093.

論文内容

1995年から2014年の期間に、デンマークの公立または私立の不妊治療クリニックでART治療を受けた若い女性(37歳以下)の治療周期を対象としました。女性は卵巣予備能の状態により、卵巣反応不良群と正常卵巣反応群の2群に分けられました。卵巣反応不良群2,734周期(胚移植1,874周期:1,213名)、正常卵巣反応群22,573周期(胚移植19,526周期:8,814名)を対象としました。
卵巣反応不良群は、調節卵巣刺激を行い、1周期目と2周期目の両方で回収卵子数5個以下と定義しました。正常卵巣反応群は、少なくとも2回の調節卵巣刺激のいずれかで回収卵子数8個以上としました。子宮内膜症・卵巣手術・PCOS・化学療法後などの症例は除外しました。評価対象は22週未満の全流産、生化学妊娠、12週以下の初期流産、12週以降の後期流産としました。

結果

卵巣反応不良群の全流産リスクは正常卵巣反応群と同等でした(調整ハザード比:1.04、95%CI:0.86〜1.26)。流産タイプ別に層別化しても、卵巣反応不良群と正常卵巣反応群で差はありませんでした。胚移植1回あたりの臨床妊娠率または出生率は、正常卵巣反応群と比較して卵巣反応不良群で低い結果となりました(aOR:それぞれ0.77(0.67〜0.88)および0.78(0.67〜0.90))。

私見

この報告では、30歳以下女性は31〜35歳女性に比べて回収卵子数が少ない方が流産率上昇する結果となっています。症例数が少ないために生じているバイアスなのか、別の理由があるのかは注目すべき点だと考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 卵巣刺激

# 卵巣予備能、AMH

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