はじめに
卵管留水症は着床率を低下させることがわかっています。αvβ3 integrin、HOXA10、IL-12、IL-1α、TNFαなど発現変化が着床の窓を変化させる、もしくは消失させる可能性が一つあります。その他、卵管水腫の液性成分が胚毒性を伴ったり、物理的に着床を阻害する可能性です。
症例ごとに違う結果になる可能性がありますが、重複子宮があり、左右で卵管留水症の状況が異なる患者様の当院報告をご紹介いたします。
ポイント
重複子宮における左右の子宮でERA、EMMA、ALICE検査を実施した症例報告です。卵管留水症の有無にかかわらず、両側の子宮で同様の検査結果が得られ、最終的に妊娠・分娩に至りました。
引用文献
Junichiro M, et al. endocrines. 2022. DOI:10.3390/endocrines3040068
https://www.mdpi.com/2673-396X/3/4/68
論文内容
重複子宮、片側腟閉鎖、同側腎欠損であるOHVIRA(Obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomary)症候群の34歳女性(27歳時:腟中隔切除術、右卵管留水症あり)のERA、EMMA、ALICEの結果を踏まえて妊娠・分娩に至りました。
結果
| 右子宮(卵管留水症) | 左子宮(卵管正常) | |
| ERA 検査 | Receptive 126±3 時間 | Receptive 126±3 時間 |
| EMMA 検査 | Lactobacillus 0% Escherichia 46.78% Trabulsiella 31.69% Microbacterium 5.54% Others 15.99% | Lactobacillus 0% Escherichia 49.91% Trabulsiella 30.67% Microbacterium 5.99% Streptococcus 5.84% Others 7.59% |
| ALICE 検査 | Escherichia 46.78% | Escherichia 49.91% |
| 慢性子宮内膜炎 | 異常なし | 異常なし |
私見
過去には31歳女性の重複子宮Class U3b(ESHRE/ESGE分類)で、左右子宮のERA結果が異なったという報告(Carranza, F., et al. J Hum Reprod Sci 2018.)もありますが、重複子宮でのERA、EMMA、ALICE結果を詳細に検討した報告はありませんでした。
一歩ずつですが、患者様にご提供いただいた貴重な経験を世界の不妊で悩むカップルのために形に残し続けたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。