はじめに
ホルモン調整周期の凍結融解胚移植では黄体ホルモンを投与してから120時間前後での胚移植を推奨されていることが一般的ですが、排卵周期では明確な定義がありません。受精胚発育と子宮内膜の着床の窓の時期が一致しないと上手く着床はおきません。排卵周期の場合、排卵後どれくらいに胚盤胞移植をするのがベストなのかを正倍数性胚を用いて検証した結果をご紹介いたします。
ポイント
hCGを用いた排卵周期凍結融解胚移植において、hCGトリガー後160±4時間に1回の凍結融解胚盤胞移植を行うことは、その時間外に胚移植を行う群と比較して高い出生率と関連していました。しかし、トリガーを用いない排卵周期凍結融解胚移植においては広範囲の時間間隔に渡って同等の出生率でした。
引用文献
Belinda Gia Linh An, et al. Hum Reprod. 2022 Oct 28;deac227. doi: 10.1093/humrep/deac227.
論文内容
2015年5月から2019年2月に、PGTを行い正倍数性胚であった1,170周期の単一凍結融解胚盤胞移植を解析した多施設共同レトロスペクティブコホート研究です。評価項目は胚移植周期あたりの出生率としました。
患者は自然またはゴナドトロピンにて卵胞発育を促し、ホルモン値をみて排卵日を測定しました。hCGを用いた排卵周期(n=253)では、排卵はhCGトリガーから約40時間後に起こると仮定したため、これはhCGトリガーから160±4時間としました。自然排卵周期(n=917)においても、自然LHサージから平均160±4時間後としました。
結果
出生率は、胚移植がhCGトリガーまたはLHサージ開始後160±4時間に行われた場合、このウィンドウ外で行われた場合と比較して高くなりました(44.7% vs 36.0%; P=0.008)。時間を160±6時間、±8時間、±12時間以内としても同様の結果となりました。
多変量回帰GEEモデルにおいて、周期タイプ(hCGトリガーの有無)、胚盤胞のグレード、ハッチングの有無、胚ステージ、ガラス化凍結がday5かday6か、生存率を変量としても、hCGトリガーまたはLHサージ発生後160±4時間(排卵後120±4時間に相当すると仮定)に行った胚移植は、出生率が高いこと(RR: 1.21、95%CI 1.04-1.41)がわかりました。
サブグループ解析により、これらの知見は主にhCGを用いた排卵周期凍結融解胚移植に依存していることがわかりました(RR 1.52、95%CI 1.15-1.99)。自然排卵周期はより広範囲の時間間隔にわたって同等の出生率を示しました。さらに、自然排卵周期(36.8%; 95%CI 33.7-39.9%)の出生率は、hCGを用いた排卵周期(41.3%; 95%CI 35.4-47.1%)より低く、排卵周期胚移植の時期をさらに最適化する大きな可能性が残っていると思われることが示唆されました。
私見
排卵周期の再現性を見るうえ、初回の適切に胚移植を行う時期を決定するうえでは、貴重な報告だと感じています。排卵時期はhCG投与後約40時間(Fischerら、1993; Andersenら、1995)と定義しています。LHサージ後排卵時期は、Hoffらが1983年に行った報告を基に分類分けしています。
自然排卵周期がhCGを用いた排卵周期凍結融解胚移植に比べてwindowの幅が広く見えたのは、LHサージがでてからの排卵時期予測の自由度が高い点が影響しているのかもしれません。
| LHサージ | P4 | 予測時間とのずれ | 排卵時期 |
|---|---|---|---|
| <20 | <0.94 | 0 | 40時間後に排卵(トリガー実施) |
| 20-50 | <0.94 | -6hr | 34時間後に排卵と仮定 |
| >50 | <0.94 | -12hr | 28時間後に排卵と仮定 |
| >50 | >0.94 | -24hr | 16時間後に排卵と仮定 |
| <50 | >0.94 | -36hr | 4時間後に排卵と仮定 |
文責:川井清考(WFC group CEO)
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