
はじめに
胎盤遺残(RPOC)は妊娠終了後に子宮内に残存する妊娠組織を指し、発生頻度は約3%と報告されています。生殖補助医療の普及により、流産後のRPOCリスクも高まっています。従来の保存的管理では長期間を要することが多く、保存的管理で改善しない場合は外科的介入が必要となります。今回、GnRHアンタゴニスト経口薬relugolix(レルゴリクス)のRPOCに対する治療効果を評価したレトロスペクティブ研究をご紹介いたします。
ポイント
GnRHアンタゴニスト経口薬は妊娠22週未満の流産後RPOCに対して、血流減少とサイズ縮小を促進し、外科的介入の必要性を有意に減少させ、月経再開までの期間を短縮する可能性があります。
引用文献
Satoko Sasatsu, et al. Front Med (Lausanne). 2025 May 27:12:1543272. doi: 10.3389/fmed.2025.1543272.
論文内容
妊娠22週未満の流産後に形成された胎盤遺残(RPOC)に対するGnRHアンタゴニスト経口薬の有効性を調査することを目的としたレトロスペクティブ研究です。流産後のRPOC症例97例を対象としました。GnRHアンタゴニスト経口薬投与群(n=20)と非投与群(historical control、n=77)の臨床経過を比較しました。投与群の内訳は、流産週数6-9週が12例(60%)、10-14週が5例(25%)、19-20週が3例(15%)でした。妊娠転帰別では、ART妊娠12例(60%)、自然妊娠8例(40%)でした。RPOCサイズは最大径12-59mm(中央値26.5mm)で、自然排出後のRPOC 10例、流産手術後4例、人工妊娠中絶後3例、後期自然流産後3例が含まれました。relugolix(40mg)を1日1回投与し、少なくとも14日後に経腟超音波で治療反応を評価しました。RPOCの血流が消失した場合は治療を中止し月経再開をモニターし、血流が持続する場合は3-4週間または血流が消失するまで治療を継続しました。治療開始後にRPOCの血流やサイズに減少が認められない場合には外科的介入を実施しました。
結果
治療開始後のRPOC最大径の縮小率は、GnRHアンタゴニスト経口薬群で50(0-79.7)%、非GnRHアンタゴニスト経口薬群で15.4(0-56.9)%と、GnRHアンタゴニスト経口薬群で高値でした(p<0.001)。外科的介入を要した頻度は、GnRHアンタゴニスト経口薬群で30.0%(6/20)、非GnRHアンタゴニスト経口薬群で70.1%(54/77)と、GnRHアンタゴニスト経口薬群で低値でした(p=0.002)。多変量解析では、GnRHアンタゴニスト経口薬投与により外科的介入のリスクが減少しました(aOR(95%CI):0.20(0.06-0.58)、p=0.003)。GnRHアンタゴニスト経口薬群では、RPOC診断から月経再開までの期間が14.5(9-71)日と、非GnRHアンタゴニスト経口薬群の26.0(6-95)日と比較して短縮していました(p=0.002)。月経再開の短縮は、GnRHアンタゴニスト経口薬による血流減少とRPOCサイズ縮小により、薬剤中止後の自然な月経周期の早期回復が促進されたと考えられます。効果が高い症例の特徴として、外科的介入が不要だった14例では平均年齢33.4±7.2歳、ART妊娠50%、RPOC縮小率58.0(5-100)%であったのに対し、外科的介入が必要だった6例では平均年齢35.3±3.0歳、ART妊娠83.3%、RPOC縮小率8.7(0-100)%でした(p=0.03)。初期RPOCサイズは治療効果に影響しませんでした。
私見
GnRHアンタゴニスト経口薬がRPOC治療において有効である可能性を示した初めての研究です。RPOCに対する薬物療法としては、これまでプロゲスチン製剤による内膜調節が試みられてきましたが、GnRHアンタゴニスト経口薬の直接的なエストロゲン抑制効果はより強力である可能性があります(Xu D, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2022)。また、外科的介入が必要な場合の術前血流減少により、手術視野の改善と合併症リスクの軽減が期待されます。興味深いことに、初期RPOCサイズ(12-59mm)は治療効果に影響しないことが示されました。ただし、本報告は後ろ向き研究であり、今後は前向き比較試験による検証に期待です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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