はじめに
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢女性の8%~13%が罹患しているとされています。PCOSの国内での診断基準は「日産婦2024」を使用しますが、国際的には「ロッテルダム診断基準2003」を用いることが一般的です。
比較的、似通った基準ですので論文投稿など以外では、臨床を行う上での問題は生じません。「ロッテルダム診断基準」では排卵障害、アンドロゲン過剰症、超音波での多嚢胞卵巣の3項目のうち少なくとも2項目に基づき、4表現型群を定義しています。
A型 = 排卵障害 + アンドロゲン過剰症 + 超音波での多嚢胞卵巣
B型 = 排卵障害 + アンドロゲン過剰症
C型 = アンドロゲン過剰症 + 超音波での多嚢胞卵巣
D型 = 排卵障害 + 超音波での多嚢胞卵巣
PCOS女性の表現型、内分泌、代謝の経時的変化を評価した報告をご紹介します。
ポイント
PCOSは40歳になると20%、50歳になると75%が診断基準から外れます。排卵障害は年齢と共に改善し、アンドロゲン過剰症は年齢と共に減少しますが一部の症例では継続します。超音波での多嚢胞卵胞は30歳以降に減少し始め、BMIとウエスト周囲径は年齢と共に増加します。インスリン抵抗性に有意差はありませんが年齢と共に増加傾向です。
引用文献
Jolanda van Keizerswaard, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.01.014
論文内容
ロッテルダム基準にてPCOSと診断し反復して受診されている患者の初診・再診時の臨床的および内分泌的特徴の変化を評価しました。
結果
596名の女性が外来診療を繰り返し受診して評価対象としました。5歳ごとの変化を推定すると、「排卵障害 + アンドロゲン過剰症+ 超音波での多嚢胞卵胞」パターンが減少し、PCOS診断を満たさない割合が増加しました。
血清中のテストステロン、アンドロステンジオン、DHEA-S、および遊離アンドロゲン指数は減少しました。BMIとウエスト周囲径の増加を示しましたが、血漿グルコースレベル、インスリンレベル、インスリン抵抗性は変化を示しませんでした。
私見
年齢が高い女性を診ていると、現在は排卵障害がないけれど以前はPCOSだっただろうなという患者さまを診察することがあります。臨床的特徴を把握する上で参考になる報告です。
規則的な月経周期は21~35日、希発月経は>35日、無月経は>188日と定義しています。
多嚢胞卵巣は、片方または両方の卵巣に12個以上の卵胞(直径2~9mm)および/または10mL以上の卵巣容積があり、10mm以上の発育卵胞が存在しないものと定義されています。
インスリン抵抗性はHOMA-IRで計算されています。血漿グルコース(mmol/L)×血漿インスリン(mU/L)/22。インスリン抵抗性は、(1/HOMA-IR)<0.47と定義されていますが、これは単位が異なるためです。
PCOS日本産科婦人科学会は下記URLをご参照ください。
https://www.jsog.or.jp/medical/5122/
当コラムでも触れています。
https://wfc-mom.jp/blog/post_1041/
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。