はじめに
タイムラプスは胚を取り出さずに連続観測することで、温度などの環境変化を最小限にし、胚発生を向上させるとされています。同時に、大量のmorphokineticデータを収集することが可能であり、胚選択と継続妊娠率向上に寄与する可能性を秘めています。最近では、胚盤胞移植後の妊娠予測にAIが広く研究されています。タイムラプスの全てにAIスコアがついているわけではありませんが、導入しているクリニックも増えてきています。
本論文では、胚盤胞の従来の形態評価であるGardner分類、形態と時間評価を組み合わせたKIDScore Day5 ver3、AIスコアリングのiDAScore® v1.0 modelが、正倍数性胚とどのように相関するか検討した国内の報告をご紹介いたします。
ポイント
胚盤胞の評価法として、Gardner分類、Vitrolife社のEmbryoscopeタイムラプスを用いたKIDScore Day5 ver3、AIスコアリングのiDAScore® v1.0 modelの3つの方法は、いずれも正倍数性胚率と相関を示しました。各評価法に優劣はありませんでしたが、複数の評価法を組み合わせて使用することにより、より効果的な胚選択が可能になる可能性が示唆されました。
引用文献
Keiichi Kato, et al. Reprod Biomed Online. 2022. DOI:10.1016/j.rbmo.2022.09.010
論文内容
本研究は、着床前遺伝学的検査(PGT-A)を施行した834名の女性(平均年齢:40.5±3.4歳)を対象としたレトロスペクティブ研究です。対象者の卵から採取した3,573個の胚盤胞に対してPGT-Aを実施しました。
対象者を年齢別に5グループ(35歳未満、35~37歳、38~40歳、41~42歳、42歳以上)に層別化し、以下の3つの評価法が正倍数性胚率とどのように相関するかを検討しました。
1. Gardner分類(従来の形態評価)
2. KIDScore Day5 ver3(形態と時間評価を組み合わせた評価)
3. iDAScore® v1.0 model(AIスコアリング)
結果
Gardner分類、KIDScore Day5 ver3、iDAScore® v1.0 modelの評価スコアが低下するにつれて、正倍数性胚率は有意に低下しました。
多変量ロジスティック回帰分析の結果、すべてのモデルにおいて、スコアが高いほど正倍数性胚率と有意に相関していました(P < 0.05)。一方、3つのモデル間では有意な差は認められませんでした。
私見
当院でも導入しているAIスコアリングです。
AIモデルは、AIが何を評価しているかが完全には解明されていない反面、培養士の主観的評価やその評価のばらつきという問題を払拭できる可能性があります。業界でよく指摘されている「クリニック間で形態評価が一致しない」という問題の解決にもつながると考えられます。今後、培養士の形態評価とAIモデルを組み合わせて移植胚を評価する時代が遠からず来ると感じています。受精胚評価の質の向上と標準化を実現する上で、AIの活用は非常に重要な役割を果たすでしょう。
| iDAスコア | 女性年齢 | Gardner(AA) | Gardner(AB,BA) | Gardner(BB) | Gardner(他) | 全体個数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 9.1-9.9 | 42歳未満 | 55.2% | 41.9% | 37.0% | 39.3% | 482 |
| 42歳以上 | 28.1% | 7.1% | 6.2% | 0.0% | 272 | |
| 1.0-6.6 | 42歳未満 | 44.4% | 40.0% | 22.2% | 21.5% | 419 |
| 42歳以上 | 0.0% | 12.0% | 0.0% | 2.6% | 458 |
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。