はじめに
着床を考える際に胚の受容させる受容・選別のバランスが大事という「チェックポイント仮説」(Macklon and Brosens 2014)という考えがあります。受容・選別が弱いとダメな胚も着床させてしまい妊娠後の損失が増えますし、受容・選別が強すぎると着床不全が起こります。これらのことから不育症と着床不全の治療・検査結果の解釈を難解にさせています。患者の過去の流産や着床不全は、胚盤胞1個あたりの正倍数性割合や正倍数性胚と凍結融解胚盤胞移植を実施した際の出生率と関連があるかどうか調べました。
ポイント
着床不全歴のある女性では正倍数性胚を用いた凍結融解胚盤胞移植の出生率が低下しますが、流産既往の有無は出生率に影響しませんでした。胚盤胞1個あたりの正倍数性割合は母親年齢のみと関連していました。
引用文献
Danilo Cimadomo, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab014
論文内容
2013年4月〜2019年12月に体外受精を実施し、少なくとも1つの胚盤胞におけるPGT-Aを実施した2,676名のカップル、8,151個の胚盤胞を対象としました。
結果
採卵時の母親年齢は、胚盤胞1個あたりの正倍数性割合と有意に関連する唯一の変数でした(35歳未満66±31%、35〜37歳58±33%、38〜40歳43±35%、40〜42歳28±34%、42歳以上17±31%)。過去の出産既往、流産、体外受精・着床不全と胚盤胞1個あたりの正倍数性割合の関連性は認められませんでした。正倍数性の凍結融解単一胚盤胞移植は着床率51%(802/1580)、流産率14%(110/802)、出生率44%(692/1580)でした。出生率は過去の流産回数とは無関係でしたが、過去の着床不全回数に応じて減少傾向を示しました。着床不全2回以上の女性は着床不全が一度もない女性と比較すると出生率は有意に低下しました(36% vs. 47%、P<0.01;胚質と胚盤胞凍結日で調整後OR 0.64、95% CI 0.48〜0.86、P<0.01)。
患者の問診時の患者の過去の流産や着床不全歴は胚盤胞1個あたりの正倍数性割合とは関連は認めませんでしたが、着床不全歴がある女性では正倍数性胚と凍結融解胚盤胞移植を実施した際の出生率が低下することがわかりました。
流産既往が1回(100/258、39%、P=0.1)または2回以上(61/136、45%、P=0.99)の女性では、流産歴のない女性(531/1186、45%)と比較して正倍数性の凍結融解単一胚盤胞移植の出生率に差はありませんでした。着床不全回数が2回以上の女性(N=93/255、36%;P<0.01)と、着床不全回数が1回もない女性(N=452/970、47%)を比較すると、正倍数性の凍結融解単一胚盤胞移植の出生率に差を認めています。差は着床率であり、流産率には差を認めていません。
私見
この結果は不育症の大きな部分は胚異数性にあること、母体要因は割合が低いため統計的有意差がでてこない可能性があります。着床不全はattachment異常が一定数あるため、正倍数性胚での出生率が着床率の差によりついた可能性があるのだと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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