不育症

2021.12.09

妊娠・出産する力は流産既往と関係があるの?(Hum Reprod. 2021.)

はじめに

流産と妊娠・出産する力は共通のリスクがあると考えられていますが、流産と妊娠する力がどのように関係するかはわかっていません。
妊娠までの期間が長いと妊娠での流産リスクが高くなることが報告されています(Gray and Wu, 2000; Axmon and Hagmar, 2005)。しかし、流産を繰り返す人では妊娠までの期間が短いという報告も多数あります。実際、自然妊娠して過去の流産歴がある患者様がいらっしゃったときに、生殖医療者としてどのようなヒアリングが適切なのでしょうか。
今回、過去に流産歴がある女性は、妊娠する力が低いことと関連しており、不妊期間が長い女性(妊娠までの期間が12ヶ月以上)は、その後の流産のリスクが高いことを報告した論文をご紹介いたします。

ポイント

過去の流産回数が多いほど妊娠・出産する力が低下し、妊娠までの期間が12ヶ月以上の女性では、その後の流産リスクが有意に高くなることが示されました。流産歴のある患者様には、詳細なヒアリングと適切なカウンセリングが重要です。

引用文献

Lise A Arge, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab252

論文内容

この研究では過去の流産歴が次の妊娠・出産する力と相関するか、また前回の妊娠までの期間(TTP: time to pregnancy)が次回の流産率と関係するのかを検討した報告です。ノルウェーのコホート研究(MoBa)に基づき検証しています。過去に1回以上の妊娠歴がある女性48,537名(体外受精妊娠を除く)について、過去の流産回数と妊娠力との関連を調べました。多変量解析では、母体年齢、妊娠前母体BMI、喫煙の有無、月経周期の規則性、所得水準、学歴を調整しています。

結果

妊娠・出産する力は、過去の流産回数が増えるにつれて低下しました。過去の流産回数が1回、2回、3回以上の女性の調整後、妊娠・出産する力は、流産歴がない女性と比較して、それぞれ0.83(95%CI: 0.80-0.85)、0.79(95%CI: 0.74-0.83)、0.74(95%CI: 0.67-0.82)でした。TTP(妊娠までの期間)3ヵ月未満の女性と比較して、その後の妊娠における流産の調整後RRは、TTP 3~6ヵ月で1.16(0.99~1.35)、TTP 7~11ヵ月で1.18(0.93~1.49)、TTP 12ヵ月以上で1.43(1.13~1.81)でした。

私見

過去の流産回数が多いほど出産する力が低く、不妊期間が長いほど流産のリスクが高いことがわかりました。今回の報告は自然妊娠に限った報告で、女性の年齢も30~33歳代がほとんどです。
流産は様々なタイプがあると考えられています。一番は受精胚の質が原因なのですが、着床させる女性側の因子としても、ダメなタイプの胚も着床させてしまう場合であったり、良好胚が着床までは到達するけれど、その後排除されてしまう場合であったり、色々な可能性が考えられています。
偶発的な流産経験がある女性と反復流産患者では患者様に話す内容が大きく異なってきます。不妊・着床不全・不育症は一体となって理解を深めていく必要があるのだと考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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