治療予後・その他

2021.11.09

流産後・出産後すぐに卵巣刺激をすると採卵は可能(がん・生殖報告)

はじめに

体外受精を行う際の卵巣刺激は、流産・出産後、妊娠中に分泌されていたホルモン(hCGなど)が低下し、月経周期が戻ってきてから開始することが一般的です。では、それより前に刺激した場合は卵胞発育が起こらないことや、回収できたとしても変性卵・不良卵になることがあるのでしょうか?
通常の体外受精治療中は、出産後・流産後すぐの卵巣刺激は一般的ではありませんが、妊娠中に悪性疾患が判明して出産直後から月経を待たずランダムスタートでの卵巣刺激を行い、受精胚を妊孕性温存した症例報告が出てきておりますのでご紹介させていただきます。

ポイント

流産手術後や出産直後からの卵巣刺激でも卵子回収は可能です。ただし悪性疾患治療のため猶予がない患者が基本的な対象であり、血栓リスクや合併症、心理的ストレスなどを考慮し慎重に検討する必要があります。

引用文献

①Nigel Pereira, et al. Gynecol Endocrinol. 2019

論文内容

①乳がんが妊娠5週で発覚し、子宮内容除去術後5日目から卵巣刺激を行った症例
34歳1経妊女性、ホルモンレセプター陽性乳がんが妊娠5週に診断され、乳がん治療のために堕胎手術を実施しました。その5日後からレトロゾールFSHアンタゴニスト法(HMG 300単位→375単位/日: 計12日間)を実施しました。

結果

刺激開始時のAMH 3.4ng/mlでしたが、29個回収卵、23個成熟卵、胚盤胞10個凍結できています。

引用文献

②Gundelach T, et al. J Assit Reprod Genet.2014

論文内容

②ホジキン病が妊娠中に発覚し、分娩後7日目から卵巣刺激を行った症例
29歳1経産女性、妊娠中にホジキン病の診断を受けました。39週6日、分娩誘発無効であり帝王切除を実施しました。その際、妊孕性温存目的に左卵巣組織凍結も同時施行しました。分娩後7日目からショート法(HMG 225単位→300単位/日: 計12日間)を実施しました。

結果

刺激開始時のAMH 0.2ng/ml未満でしたが、4個回収、正常受精胚2個凍結できています。

引用文献

③Datar RS, et al. J Gynecol Surg. 2015

論文内容

③乳がんが妊娠中に発覚し、分娩後4日目から卵巣刺激を行った症例
35歳1経産女性、妊娠中にホルモンレセプター陰性乳がんの診断を受けました。満期に経腟分娩しました。分娩後4日目からFSHアンタゴニスト法(HMG 450単位/日: 計13日間)を実施しました。

結果

刺激開始時のAMH 0.38ng/mlでしたが、10個回収、正常受精胚7個凍結できています。

私見

このように流産手術後、出産直後から卵巣刺激を行うと卵子が回収できることがわかります。こういった報告をみるとランダムスタートは卵巣内に排卵可能な卵子が残っていればいつでも可能ということになります。ただし、分娩直後や手術直後は血栓リスクなども高く、卵巣刺激や採卵に伴う合併症の観点や回収卵子の良好卵子の割合、そして患者様の心理的ストレスなどを様々な角度から評価し、一般的ではない卵巣刺激は検証する必要があると考えています。現在のところは悪性疾患治療のため猶予がない患者が基本的な対象と考えています。あくまで高齢妊娠や卵巣予備能低下の患者様を対象とした報告でないことをご理解いただければ嬉しいです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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