不育症

2021.10.12

流産エビデンス(Lancet. 2021:series1)

はじめに

流産の総説(MEDLINEで2020年5月まで検索を行なっています)を、Lancetが発表しました。妊娠や不妊については取り上げられることが多いですが、流産について議論されることは、ナーバスな問題だけに他の話題に比べて少ない気がします。今回の総説では世界の流産率の比較を容易とし、研究促進し、患者ケアと政策立案を行うために流産についてデータをまとめ報告することを推奨しています。

ポイント

4,638,974件の妊娠を解析した結果、全妊娠の15.3%が流産となり、流産既往がない女性では11%であったが、流産回数が増えるごとに約10%ずつ増加した。流産リスク因子として、年齢、BMI、民族、ライフスタイルが挙げられる。

引用文献

Siobhan Quenby et al. Lancet. 2021. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00682-6

論文内容

●流産リスク 4,638,974件の妊娠からなる9つの研究では、プールされた流産リスクは、認識された全妊娠の15.3%(95%CI 12.5-18.7)でした。

●流産リスクは、流産既往がない女性で最も低く(11%)、流産回数が増えるごとに約10%ずつ増加し、過去に3回以上の流産を経験した女性では42%に達しました。

●流産リスク
年齢 20~29歳の女性では12%と最も低く、45歳以上の女性では65%に増加します。男性の年齢が40歳以上の場合も流産のリスクが高くなります。
女性BMI 流産リスクと関連しており、流産リスクが最も低いBMIは18.5-24.9kg/m²です。
民族 黒名民族は流産リスクが高いとされています。アジア民族は流産リスク因子にはなりません。
ライフスタイル 妊娠中の喫煙と飲酒、大気汚染は、流産リスクと関連しています。また、持続的なストレスや夜勤などもリスクの増加につながります。

●反復流産と周産期合併症
反復流産は周産期合併症と関連しています。早産リスクは、流産既往とともに増加し3回以上の流産既往の女性で最もリスクが高くなります。また子宮内胎児発育不全、胎盤剥離、死産などのリスクも高まります。

●反復流産と女性の健康状態
反復流産は、女性の心血管疾患や静脈血栓塞栓症などの長期的な健康問題や、精神的な状況に影響を与えます。

●流産の経済的負担
流産は、個人、医療システム、社会に影響を与えます。流産の短期的な国民経済コストは、英国では年間471百万ポンド(日本円で730億円)と推定されています。

私見

反復流産の女性でも70%以上が出産することができます。
反復流産の約半数は胎児染色体異常を繰り返し偶発的に起こってしまった流産です。
反復流産の原因検査をしてもリスク因子が見つからない症例は、約65%存在します。原因が見つからないだけで流産を繰り返す方もいらっしゃいますが、原因が見つからないほとんどの女性は、特別な治療を行わなくても次回妊娠時に出産に至ることが可能です。
反復流産の方は、まずは今置かれた状況を整理し、次の妊娠に向かう心の準備を行うべきだと考えています。それくらい流産は辛い経験だと思います。
また英国のここ10年の年間出生数は70万名前後です。その上で経済損失が730億円と見積もっていますから、日本の場合はもっと大きな影響があるでしょう。不妊-流産-周産期予後は最初に診療に関わる施設がリスク因子を抽出できるかどうかが重要だと考えています。
日々、医療知識は更新し続けていきたいと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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