はじめに
妊娠の最大の合併症は流産です。子宮内に胎嚢が見えた後も胎児心拍が見えるかどうか、胎児心拍が見えた後も流産しないか心配ですよね。一般的に胎児心拍が確認できた後の流産率は3~12%と推定されていますが、実は論文報告が少なく結論がばらけています。何個かの報告をご紹介させていただきます。
ポイント
胎児心拍確認後の流産率は3~12%で、体外受精妊娠の方が高い傾向があります。また、心拍確認後の流産率も女性年齢とともに上昇します。妊娠週数が進むにつれて流産リスクは減少します。
引用文献
①症状の全くない心拍確認できた後の流産率
Tong S, et al. Obstet Gynecol. 2008. DOI: 10.1097/AOG.0b013e318163747c
②体外受精後の胎児心拍が確認できた後の流産率
Tummers P, et al. Hum Reprod. 2003. DOI: 10.1093/humrep/deg308
③胎児心拍確認以降の流産率が年齢とともに上昇することを示した報告
Smith KE, et al. Fertil Steril 1996. DOI: 10.1016/s0015-0282(16)58024-8
論文内容
①症状の全くない心拍確認できた後の流産率
オーストラリアで、2004年から2年間実施された前向きコホート研究です。対象となったのは、妊娠6週2日から11週6日に最初の妊婦検診を受けて胎児心拍を確認できた症状のない697名(1名追跡できず)を対象としています。妊娠方法は問われていません。対象年齢は30歳前後です。切迫流産兆候のない胎児心拍が確認できた30歳前後の妊娠群では心拍確認後の流産率が1.6%で、妊娠週数が進むにつれ流産リスクが減少します。
| 流産週数 | 流産リスク | 症例数 |
|---|---|---|
| 6週 | 9.4% (0-19.5) | 3/32 |
| 7週 | 4.2% (0-8.7) | 3/72 |
| 8週 | 1.5% (0-3.2) | 3/195 |
| 9週 | 0.5% (0-1.4) | 1/210 |
| 10週 | 0.7% (0-2.0) | 1/151 |
| 11週 | 0%(0) | 0/36 |
| 全体 | 1.6% (0-2.5) | 11/696 |
②体外受精後の胎児心拍が確認できた後の流産率
体外受精で妊娠した単胎妊娠1,200例の流産率は女性年齢31.3±0.7歳で21.7%でした。胎児心拍が確認できた後の流産率は12.2%でした。この研究では妊娠7週頃に胎児心拍を最初に確認し、その後2週間ごとに追跡しています。妊娠中に性器出血があると、出血のない名に比べて2.6倍になることを示しています。また双胎での流産率も記載している貴重な報告です。(双胎は397症例、女性年齢30.7±0.6歳)
| 単胎 | 双胎 | 有意差 | |
|---|---|---|---|
| 全体 | 21.1% | 11.1% | 有意差あり |
| 胎児心拍確認後 | 12.2% | 7.3% | 有意差あり |
| 妊娠7週以降 | 11.9% | 7.3% | 有意差あり |
| 妊娠9週以降 | 8.2% | 4.9% | 有意差あり |
| 妊娠11週以降 | 4.2% | 2.2% | 有意差なし |
| 妊娠13週以降 | 2.2% | 2.0% | 有意差なし |
この論文では女性年齢とともに流産率があがると議論していますが、胎児心拍確認以降の議論はしていません。
③胎児心拍確認以降の流産率が年齢とともに上昇することを示した報告
妊娠7~9週に胎児心拍を確認した後の流産率を年齢別に比較した201症例の研究では、35歳以下2.1%、36~39歳14.9%、40歳以上20%と年齢とともに胎児心拍確認以降の流産率も上昇しました。
私見
上記の論文をまとめていくと
- 心拍確認後の流産率は3-12%
- 体外受精妊娠の方が心拍確認後の流産率が高い傾向
- 心拍確認後の流産率も年齢とともに上昇
この論文は、たくさんの気づきのポイントを提供してくれています。現在ではプロゲステロン腟剤を使うため、腟剤使用による性器出血がありライン引きは難しいですが、やはり性器出血は流産率と関係してそうである点、体外受精での黄体補充が流産をある一定数補完してくれている可能性、不育症で議論されているように妊娠10週前後からの流産は胎児因子以外を疑う必要性があります。不妊治療の患者様が望む結果は出産ですので、妊娠最大の合併症である流産もしっかり管理していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。