はじめに
染色体異常には数的異常と構造異常があります。数的異常には46本の染色体に1-2本の増減が伴う異数性(heteroploid)と、染色体が通常の2倍体(46本)ではなく3倍体(69本:triploid)、4倍体(92本:tetraploid)になる倍数異常があります。三倍体妊娠は全妊娠の多くて2%程度、流産時検査で同定される染色体異常の約10%を占めます。
三倍体妊娠の大部分の症例が妊娠初期に流産します。三倍体の核型には、69,XXX、69,XXY、および69,XYYの3種類があり、69,XXXと69,XXYの場合、余分な染色体は父型(diandric)または母型(digynic)のどちらかに由来します。69,XYYは常に父型由来であり、めったに受精胚発生しないか、臨床妊娠前に消失します。
この論文は流産週数により倍数体の起源が父型・母型由来の比率が変化するかを報告した論文です。
ポイント
3倍体流産は流産週数により父型由来と母型由来の比率が異なり、妊娠11〜14週では父型由来が多く、妊娠14週以降では母型由来が多くなることが明らかになりました。父型由来は部分胞状奇胎との関連があるため、臨床的に重要な知見です。
引用文献
Diana Massalska et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02202-4
論文内容
単一遺伝センターで4年間に検査された107名の3倍体サンプルを、マッチングした親サンプルがある群ではQF-PCR(n=95)、親サンプルがない群ではMS-MLPA(n=12)を用いて、3倍体の親由来を分析しました。検査対象となった妊娠は、自然流産時の妊娠週数に応じて①妊娠11週未満、②妊娠11〜14週、③妊娠14週以降の3つのサブグループに分けました。
結果
3倍体の中で父型由来は44.9%(①妊娠11週未満:46.5%、②妊娠11〜14週:64.3%、③妊娠14週以降:27.8%)を占めました。3倍体の父型(diandric)または母型(digynic)由来の分布は、妊娠期間に依存することが示されました。
私見
父型の倍数異常は部分胞状奇胎(PHM)や奇胎後の妊娠性絨毛腫瘍(GTN)のリスクと関連があることから、3倍体の親の起源を特定することは重要です。倍数異常の父型由来の割合は20〜85%と文献により大きな相違があり、選択バイアスの影響を受けている可能性があります。今回の研究では、4年間に単一施設で検査された3倍体サンプルを前向きに分析し、父型または母型症例の割合が同等でしたが、流産週数により分布が異なることが示されました。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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