はじめに
当院では、クロミッド®刺激採卵を行った際の新鮮胚移植は可能な限り実施しない方針で治療を行ってきました。これには理由があり、当院の成績が他施設の成績に比べて低い傾向にあったこと、他の刺激法に比べて内膜厚が薄くなることが数多く見られたからです。これらのことから、内膜厚が薄くなることによるネガティブな作用が強いと判断し、積極的にクロミッド®新鮮胚移植を行うのを避けてきました。クロミッド®刺激採卵の新鮮胚移植の成績は内膜厚に関係するかどうかを調査した国内からの報告です。
ポイント
クロミッド®刺激周期では、排卵誘発日の子宮内膜厚が7mm未満の場合、新鮮分割期胚移植後の臨床妊娠率が有意に低下します。胚移植日の内膜厚よりも、排卵誘発日の内膜厚が妊娠成績の予測因子として有用でありそうです。
引用文献
Seiko Nishihara, et al. Reprod Med Biol. 2020. DOI: 10.1002/rmb2.12315
論文内容
クロミッド刺激体外受精周期において、排卵誘発日と新鮮分割期胚移植日における子宮内膜厚が妊娠成績の予測因子となるかどうかを後方視的に検討しました。
2018年11月から2019年3月までの74周期のクロミッド刺激体外受精における排卵誘発日と新鮮分割期胚移植日における子宮内膜厚と妊娠率・継続妊娠率との関係を統計的に解析しています。
結果
胚移植当日の子宮内膜厚は継続妊娠率と有意に関連しませんでしたが(調整済みオッズ比[AOR]、1.043;P=0.3251)、排卵誘発当日の子宮内膜厚の低下は継続妊娠率の低下と有意に関連しました(AOR、1.154;P=0.0042)。さらに、クロミッドサイクル中のトリガー日に子宮内膜厚が7mm未満であった場合、臨床妊娠率は有意に低くなりました。
私見
クロミッド刺激体外受精周期において新鮮分割期胚移植の妊娠成績は、排卵誘発日の子宮内膜厚の測定が有効であることが分かりました。
これまでの研究では、移植当日(分泌期)の子宮内膜厚≦7〜8mmの場合、移植後の妊娠率が低下することが報告されています。今回の研究では、その研究を踏襲して移植当日の子宮内膜厚が≧8mmの患者にのみ移植を実施しています。
今回の解析から、排卵誘発日の子宮内膜厚が7mmよりも薄いと、移植後の妊娠率が有意に低下することが明らかになっています。
今回のデータは女性年齢38歳平均、クロミッド®(50-100mg/day)を月経3日目から連日内服し、ブセレリン点鼻液にて採卵を実施し、採卵後2日目に新鮮胚移植を実施しています。移植後はデュファストン®30mg/日を内服しています。
当院でも患者様の負担を考えて、これらのデータを振り返り、排卵誘発日内膜7mm以上、移植日内膜10mm以上であれば新鮮胚移植を検討してもよいのではないかと考えさせられた論文でした。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。