治療予後・その他

2021.04.13

体外受精妊娠の子供の成長パターンは?( Hum Reprod. 2021)

はじめに

患者様から「体外受精妊娠は安全なのですか?」という質問をよく受けます。奇形率に目が行きがちで、周産期合併症や長期予後は議題にあがることがありません。今回ご紹介する論文は、自然妊娠と体外受精妊娠の17歳までの身長・体重をフォローアップした報告です。

ポイント

体外受精で妊娠した児は出生時には身長・体重が小さいものの、3歳頃までに急速に成長してキャッチアップします。17歳時点では自然妊娠児と差はなくなります。凍結胚移植後に生まれた児は、新鮮胚移植後に生まれた児よりも胎児期から6歳まで体格が大きくなる傾向がありました。不妊症の両親から生まれた児の成長パターンは、ARTの手技そのものではなく、両親の不妊症自体が要因である可能性が示唆されました。

引用文献

Maria C Magnus, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab007.

論文内容

ARTで妊娠した児と自然妊娠した児の成長パターンを比較することを目的に、前向きの人口ベースの研究を行いました。ノルウェーの母・父・子コホート研究(MoBa)に参加している81,461名の児と、兵役の際のスクリーニングを受けた544,113名の青年を対象としました。Medical Birth Registryに登録されたART妊娠において、妊娠中期から7歳までのMoBaの児の母親から報告された身長・体重を、混合効果線形回帰法を用いて妊娠形態別に比較しました。兵役検査時の17歳時点での自己申告の身長・体重の違いを線形回帰で評価しました。

結果

出生時、ARTで妊娠した児は、身長が低く(男児-0.3cm、95%CI、-0.5~-0.1、女児-0.4cm、95%CI、-0.5~-0.3)、体重が軽い傾向がありました(男児-113g、95%CI、-201~-25、女児-107g、95%CI、-197~-17)。出生後、ART妊娠した児は、より急速に成長し、3歳時点で身長と体重の両方が急速に増加しキャッチアップしました。ART妊娠した児は、7歳までは身長が大きかったのですが、17歳までには身長も体重も自然妊娠と同様になりました。
今回のサブグループ解析では、自然妊娠(妊娠までの期間:4-12ヶ月)、自然妊娠(妊娠までの期間:12ヶ月以上)、自然妊娠経験があるART妊娠、ART妊娠で比較していますが、妊娠に時間がかかった両親の児は、ARTによる児と同様の成長パターンを示しました。凍結胚移植後に生まれた児は、新鮮胚移植後に生まれた児に比べて、最初の2年間は身長も体重も大きくなりました。

結論

3歳頃まではART妊娠した児と自然妊娠した児の間に体格の違いが見られましたが、17歳になると差はなくなりました。凍結胚移植で妊娠した児は、新鮮胚移植で生まれた児よりも、胎児期から6歳までの間に体格が大きくなる傾向がありました。不妊症の両親から生まれた児は、ART後に生まれた児と同様の成長をしていました。このことは、ARTによって妊娠した児の成長パターンの違いの少なくとも一部は、ARTの手技そのものではなく、両親の不妊症自体が要因である可能性を示唆しています。

私見

私たちがART妊娠の予後をみるときに周産期合併症や出生児の状態で評価しがちですが、本当はもっと長期予後をみていく必要があります。
ART妊娠の乳児期の急激な成長は、その後の心血管代謝疾患の健康に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。体外受精後に生まれた児の急激な体重増加に関するある研究では、8~18歳の時点で血圧が高くなることが示されています(Ceelen, et al. 2008)。また、ARTを受けた児は1型糖尿病のリスクも高いことが示唆されています(Norrman, et al. 2020)。今後さらなる長期予後の論文報告などを検討していく必要があると考えます。
体外受精手技や培養技術も徐々に変化しています。最新のデータをフォローしていきたいと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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