体外受精

2021.02.26

卵巣刺激途中にhCGを投与して大丈夫なの?①(Gynecol Endocrinol. 2013)

はじめに

hCGは排卵誘発(トリガー)に使うイメージがありますが、実はhMG製剤のLH活性はhCGで賄っている部分が多くあります。hMGは、LH活性のためのバイアル中のLH/hCG(IU)はPERGONAL(LH 13.5/ hCG 3.4)、HUMEGON(LH 5.8/ hCG 6.9)、フェリング(MENOPUR)はLH 0.4/ hCG 9.9となっています(Wolfenson Cら.2005)。
「なぜ比率が異なるか」というと、hMG製剤の精製過程でアレルギー反応の原因や製剤のばらつきの原因となる夾雑蛋白を取り除く精製過程による影響と考えられています。hCGの等電点がLHよりFSHに近いため、FSHの純度を上げようとすると、hCG濃度が平行して上がるためFSH純度を上げた製品におけるLH生物活性はhCG由来の割合が増加すると考えられています。このhCGは妊娠尿に含まれるhCGではなく閉経婦人尿から生成された下垂体で作られたhCGなので糖鎖などは妊娠時のものと異なると考えられます。
ただ、トリガーの時に使うためのhCGが卵巣刺激中に入っていて大丈夫なの?と不安に思う方がいらっしゃると思います。HMG中に含まれる低濃度の外因性hCGの効果は、卵胞発育、卵子や胚の質、子宮内膜に影響を与えることが考えられていますが、卵巣刺激成績への影響はどうなんでしょうか。

ポイント

HMG製剤に含まれる低濃度hCGは卵巣刺激中の妊娠成績に対して負の影響はなく、むしろ正の予測因子となることが示されました。刺激途中のhCG濃度と年齢が出生率と有意に関連し、内因性LHは関連を認めませんでした。

引用文献

Joan-Carles Arce ら. Gynecol Endocrinol. 2013. DOI: 10.3109/09513590.2012.705379.

論文内容

内因性および外因性LH活性が治療成績に及ぼす影響を調査しています。358名(21~37歳、体格指数(BMI)18~29kg/m²、FSH 1~12IU/L、および21~35日の定期的な月経周期でPCOS、重度内膜症患者は除いています)をhMGで刺激し、ロングプロトコールを行いました。HMG投与量225単位+トリガーrhCG250μgを用いて36時間前後で採卵、新鮮胚移植1-2個を行なっています。

結果

単純な回顧ロジスティック回帰分析では、刺激途中のhCG(p=0.027)濃度と女性の年齢(p=0.009)が出生率と有意に関連していましたが、刺激途中のプロゲステロン濃度(p=0.075)、採卵決定時のエストラジオール濃度(p=0.075)、移植胚数(p=0.071)は関連が微妙でした。内因性LHは刺激開始時も刺激途中も採卵決定時も出生率とは関連していませんでした。重回帰分析では、刺激途中のhCG(p=0.016)が正の予測因子、年齢(p=0.004)とプロゲステロン(p=0.029)が負の予測因子という結果になりました。

私見

この論文でHMG中のLH活性として用いられる低濃度HCGが妊娠へ良好な影響を示していることがわかりました。少なくとも負の影響は全くなさそうですね。
私自身、新しい卵巣刺激や製剤の使い分けを考えるときや後輩に指導するときには薬の成り立ちを理解しなくてはミスリードをしてしまうこともあり、新しい論文ばかり読むのではなく昔の論文にも定期的に目を通すようにしています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵巣刺激

# hCG

# hMG

# ゴナドトロピン

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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