一般不妊

2020.09.30

人工授精の際の内膜の厚みはどこまで大事?( Hum Reprod. 2017)

はじめに

「クロミッド®(クロミフェン)を5回以上連続で使用すると内膜が薄くなるので、休薬を勧める」と私が生殖医療を始めた当初は上級医から教わりました。その後にレトロゾールが一般的に使用されるようになり、人工授精の卵巣刺激も以前に比べ選択肢が増えました。人工授精時の卵巣刺激別の排卵前子宮内膜厚、そして内膜厚と妊娠の関係を報告したレビューがありましたので、ご紹介させていただきます。 

ポイント

人工授精では排卵前の子宮内膜厚と妊娠率の関係は明らかではありませんでした。卵巣刺激薬の種類による内膜厚への影響は、ゴナドトロピンが最も厚く、クロミフェンが最も薄くなる傾向がありました。内膜厚を気にされる方への卵巣刺激は、ゴナドトロピン製剤の使用が望ましいですが、多胎のリスクもあるため事前の相談が重要です。 

引用文献

N S Weiss, et a. Hum Reprod. 2017. doi: 10.1093/humrep/dex035. 

論文内容

原因不明不妊の女性が卵巣刺激(クロミフェン、レトロゾール、ゴナドトロピン)を伴う人工授精を実施したときに、排卵前子宮内膜厚は妊娠率と関係があるかを検証しました。2016年6月28日までの間にMEDLINE、EMBASE、PubMedを検索し、関連論文の参照文献を確認しました。アウトカムは臨床妊娠率と平均排卵前子宮内膜厚としています。Fixed effect modelを用いて95%信頼区間で差を算出し、論文のばらつきが大きい場合はrandom effect modelを用いました。卵巣刺激薬が排卵前子宮内膜厚と関係があるかどうかメタ回帰分析を行っています。1563の論文がヒットし、その中の23論文(RCT:17件、コホート研究:6件、合計3846名の女性)を対象としました。 

妊娠に関連した排卵前子宮内膜厚の比較 
妊娠に関連した排卵前子宮内膜厚を比較した7つの論文では、妊娠した女性と妊娠しなかった女性の間で排卵前子宮内膜厚に差はありませんでした(表参照)。 

著者ら刺激方法妊娠群非妊娠群内膜平均差 
[95%信頼区間]
平均全体平均全体
TsaiCCHMG12.11611941.10[-0.30,2.50]
De GeyteruFSH10.59210.43540.10[-0.40,0.60]
RevelliFSH 10.3199.5165 0.80[-0.66,2.26
EsmailzadehCC10.1617.7188 2.40[1.50,3.30]
Foudaレトロゾール8.8409.1865-0.38[-1.07,0.31]
FoudaCC8.42 248.15820.27[-0.47,1.01]
AsanteCC7.05376.98940.07[-0.66,0.80] 
BendorpCC or FSH8.74768.371180.37[-0.33,1.07]
全体36511600.51[-0.05,1.07]

CC:クロミフェン、FSH:ゴナドトロピン 

卵巣刺激による平均排卵前子宮内膜厚の変化 

  • クロミフェン使用群がゴナドトロピン使用群より有意に薄かった。 (2件の研究、内膜平均差:-0.33mm、95%信頼区間:-0.64~-0.01) 
  • クロミフェン使用群とレトロゾール使用群は内膜厚に差がなかった。 (5件の研究、内膜平均差:-0.84mm、95%信頼区間:-1.97~0.28) 
  • クロミフェン+ゴナドトロピン併用群は、レトロゾール使用群より内膜が薄くなった。 (9件の研究、内膜平均差:-0.79、95%信頼区間:-1.37~-0.20) 
  • レトロゾール使用群はゴナドトロピン使用群よりも内膜が薄くなった。 (2件の研究、内膜平均差:-1.31、95%信頼区間:-2.08~-0.53) 

私見

体外受精では子宮内膜厚が薄くなると妊娠成績が低下することが知られています。一説には内膜直下にある螺旋動脈近くに胚が移植されることにより、胚発育に必要とされている低酸素状態が維持されていないのではという仮説もあります(Casperら, 2011)。 
今回の原因不明不妊の人工授精では子宮内膜厚と妊娠率の関係を示すことができませんでした。体外受精に比べて人工授精は妊娠率が低く、差を評価することは難しいのかもしれません。ただ、卵巣刺激による内膜厚に与える影響は一定の傾向がありそうです。今回の報告を参考にすると、内膜厚を気にされる方の卵巣刺激の場合、下記の順番の使用になります。 

ゴナドトロピン > クロミッド+ゴナドトロピン併用群 > レトロゾール ≧ クロミッド 

ゴナドトロピン製剤を使用すると複数卵胞の発育がおこり、多胎の発生率の上昇や人工授精を中止しなくてはいけない可能性もでてくることから、事前にしっかり患者様と相談することが必要だと思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 人工授精

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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