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2020.06.05

HCGトリガーと人工授精のタイミング:同時実施 vs 36時間後実施の比較検討(Reprod Biomed Online. 2019)

はじめに

人工授精(IUI)は原因不明不妊と軽度男性因子不妊に対する一般的な治療法です。妊娠率向上のため、卵巣刺激と組み合わせて実施することが多く、HCGによる排卵誘発後32-36時間でIUIを行うのが一般的です。しかし、自然妊娠においては排卵1-2日前の性交で最も妊娠率が高いことが知られており、IUIにおいても排卵前に精子を送達する方が生物学的に理にかなっている可能性があります。今回、HCGトリガーと同時のIUIと従来の36時間後IUIの有効性を比較したオランダの多施設無作為化比較試験をご紹介いたします。 

ポイント

HCGトリガーと同時のIUIは、従来の32-36時間後のIUIと比較して継続妊娠率差は認められませんでした。 

引用文献

Rijsdijk OE, et al. Reprod Biomed Online. 2019;39(2):262-269. doi: 10.1016/j.rbmo.2019.03.208. 

論文内容

HCGトリガーと同時に実施された子宮内人工授精(「HCG同時IUI」)が、HCGトリガーの32~36時間後に実施するIUI(「HCG後IUI」)と比較して、継続妊娠率を増加するかを検討したオープンラベル無作為化臨床試験です。オランダの7つの不妊治療施設で実施され、166組のカップルが「HCG同時IUI」群に、208組が「HCG後IUI」群に無作為に割り付けられました。対象は原因不明または軽度から中等度の男性因子不妊カップルで、女性の年齢が42歳以上、女性のBMIが35kg/m²以上、両側卵管閉塞、重度の男性因子不妊は除外されています。軽度卵巣刺激はFSH製剤の皮下自己注射により実施し、「HCG同時IUI」は排卵誘発のためのHCG投与と同時にIUIを実施、「HCG後IUI」はHCGトリガーの32-36時間後にIUIを実施しました。 

結果

最大4サイクル後の累積継続妊娠率は、「HCG同時IUI」群で26.2%(43例の継続妊娠)、「HCG後IUI」群で33.7%(70例の継続妊娠)でした(RR 0.78, 95%CI 0.57-1.07)。「HCG同時IUI」群のサイクル別継続妊娠率は、1回目、2回目、3回目、4回目のIUIサイクルでそれぞれ6.8%、10.5%、9.5%、7.4%でした。「HCG後IUI」群では、1回目、2回目、3回目、4回目のIUIサイクルでそれぞれ8.3%、16.4%、13.5%、9.0%でした。 

私見

今回の報告では、生物学的には理にかなっていると考えられたHCG同時IUIが、従来のHCG後IUIと比較して妊娠率の改善を示しませんでした。これまでの研究でも、HCG投与から0-36時間の間でのIUI実施において妊娠率に有意差はないとされており(Claman et al., 2004; Robb et al., 2004)、今回の結果もこれを支持しています。Järvelä et al.(2010)は小規模な後ろ向き研究でHCG同時IUIの有効性を報告していましたが、今回の大規模なRCTでは再現されませんでした。 
自然妊娠と卵巣刺激下でのIUIとの生物学的差異として、精子の容量性獲得過程の違いや、IUIでは子宮頸管を迂回するため子宮頸管陰窩での精子の貯蔵ができないことが挙げられています。また、軽度から中等度の男性因子不妊群では、HCG同時IUI群の継続妊娠率が17.9%に対し、HCG後IUI群では38.6%と差があり(RR 0.46, 95%CI 0.19-1.11)、精子の生存能力が低い場合には排卵まで精子が生存できない可能性も示唆されています。 
単胎妊娠率は低く(全体で4%未満)、これは単一卵胞刺激が多数を占めたことによると考えられます。本研究の結果から、従来の32-36時間後のIUIが推奨される治療法であり、HCG同時IUIの常用化は適切ではないと結論されています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 多胎

# 人工授精

# 排卵誘発、トリガー

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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