一般不妊

2020.05.30

人工授精の妊娠成績が10%を超える?〜ESHREデータより〜(Hum Reprod. 2013, 2016)

はじめに

人工授精の妊娠成績が高いか低いかは患者様に説明した時に患者様の反応がわかれるところだと思います。人工授精の妊娠成績を亀田総合病院、亀田IVFクリニック幕張とも追跡していますが7-10%の妊娠率です。人工授精の成績を改善させようと海外の論文を読むと妊娠率が10-20%の議論がされていることが多いため、スマートフォンから情報を取れる不妊患者様の世代がこの数字をみた時に違和感を覚えるのではないかと思います。今回、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)から報告された2009年と2011年の人工授精データを基に、妊娠率と多胎率の関係について検討いたします。 

ポイント

妊娠率10%を越えるには2個以上排卵させ多胎率10%程度を覚悟する必要があるということになります。 

引用文献

Ferraretti AP, et al. Hum Reprod. 2013 Sep;28(9):2318-31. doi: 10.1093/humrep/det278. 
Kupka MS, et al. Hum Reprod. 2016 Feb;31(2):233-48. doi: 10.1093/humrep/dev319. 

論文内容

今回の報告は、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)による2009年および2011年の生殖補助医療データを基にした大規模調査です。2009年の報告では34カ国、2011年の報告では33カ国が参加し、人工授精における妊娠成績と多胎率を詳細に分析しました。 

結果

2009年データでは、配偶者精子による人工授精(IUI-H)では162,843周期が実施され、分娩率は8.3%、多胎率は双胎10.4%、三胎0.7%でした。供精者精子による人工授精(IUI-D)では29,235周期が実施され、分娩率は13.4%、多胎率は双胎10.3%、三胎0.5%でした。 
2011年データでは、IUI-Hでは174,390周期が実施され、分娩率は8.3%、多胎率は双胎9.7%、三胎0.6%でした。IUI-Dでは41,151周期が実施され、分娩率は12.2%、多胎率は双胎7.3%、三胎0.3%でした。 
国別データを詳細に見ると、分娩率と多胎率には明確な相関関係が認められました。例えば2011年のデータでは、デンマーク(分娩率12.6%、多胎率12.2%)、ノルウェー(分娩率12.9%、多胎率16.1%)、ウクライナ(分娩率14.1%、多胎率8.8%)など、分娩率が高い国では概して多胎率も高い傾向が認められました。 

私見

今回の報告でも明らかなように、海外において人工授精妊娠率が高い理由は、多胎率をそこまで意識せずに複数排卵(2個以上)をさせている部分が大きいと考えられます。最近、4個以上排卵した場合は海外でも人工授精中止の流れになっていますが、それでも日本に比べて圧倒的に多胎率が高い現状があります。 
2009年、2011年ESHRE参加国の人工授精成績を検討すると、妊娠をしてから20%程度は流産をしますので、分娩率=妊娠率×0.8くらいだとご理解ください。2009年のデータで振り返り全体をまとめると約16万周期での分娩率が8.3%、多胎率が10.4%ですから、簡単に言うと「妊娠率10%を越えるには2個以上排卵させ多胎率10%程度を覚悟する必要がある」ということになってしまいます。 
日本では、多胎は周産期リスクが高く胎児への障害も出る可能性が高くなるため、多胎を避けることを念頭に人工授精を行います。当院でも多胎にならないように排卵個数に気を使って卵巣刺激を行なっていますが、開設当初より1.3%程度の多胎率があります。多胎率を上げないようにしながら妊娠率10%を目指せるように努めていきたいと思います。 
多胎妊娠のリスクとして、早産率の増加、低出生体重児の増加、妊娠高血圧症候群の増加などが知られており、これらを考慮すると安全性を重視した治療方針が重要です。海外の高い妊娠率の背景には、このような多胎妊娠のリスクを受け入れた治療戦略があることを理解しておく必要があります。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 多胎

# 人工授精

# 疫学研究・データベース

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

原因不明不妊に対するCC、AI、ゴナドトロピン注射と人工授精の費用分析(Fertil Steril. 2024)

2025.06.03

人工授精における精子調整法の比較(Hum Reprod. 2025)

2025.04.21

人工授精hCGトリガーまでの日数は成績に影響しない(F S Rep. 2023)

2024.02.06

一般不妊治療早期ドロップアウトの要因(Hum Reprod. 2024)

2024.02.01

一般不妊の人気記事

子宮卵管造影後どういうカップルが妊娠しやすい?(論文紹介)

2020.06.05

HCGトリガーと人工授精のタイミング:同時実施 vs 36時間後実施の比較検討(Reprod Biomed Online. 2019)

不妊患者の自覚症状のない甲状腺機能低下(ASRMガイドライン2024)

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

難治性排卵障害PCOSにはレトロゾール長期間内服が奏功( Fertil Steril. 2023)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30