プレコンセプションケア

2023.03.25

男性のプレコンセプションケア③~アルコール摂取と精液所見の関係についての正式な研究結果報告〜(論文紹介)

今回ご紹介する論文

ALDH2 Expression, Alcohol Intake and Semen Parameters among East Asian Men.
Greenberg DR, Bhambhvani HP, Basran SS, Salazar BP, Rios LC, Li SJ, Chen CH, Mochly-Rosen D, Eisenberg ML. J Urol. 2022 Aug;208(2):406-413. PMID: 35344413.

東アジアの男性におけるALDH2発現、アルコール摂取量および精液のパラメーター

以前、米国泌尿器科学会(2022年)での研究発表でのしました(2022年7月23日投稿)。その研究発表が正式な論文になったものがありましたので再度ご紹介いたします。基本的には同様の内容です。あわせてお読みいただければと存じます。

研究の要旨

研究の目的は次のようになっています:ミトコンドリアのアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)が不活性化する変異は非常に多く存在します。最も一般的な変異型であるALDH2*2は、東アジア人の40%~50%に存在し、アルコール摂取後にアセトアルデヒドの蓄積、顔面紅潮、頻脈を引き起こします。アルコール摂取とALDH2遺伝子型が精液検査所見に及ぼす関係については、まだ不明ですので、この研究で検討しました。
研究の対象と方法は以下のようになります。東アジア系の男性を対象に、ALDH2遺伝子型、アルコール摂取量、精液検査所見との関連を明らかにするために横断研究を実施しました。ボランティアはアンケートに回答し、解析のために精液サンプルを提出しました。参加者はALDH2の遺伝子型(ALDH21/1、ALDH21/2、ALDH22/2)を決定するために遺伝子配列を決定しました。また、精子におけるALDH2のタンパク質発現を検討するために精子に対して免疫組織化学染色が施行されました。
結果は以下のようになります。参加した112人のうち45人(40.2%)がALDH22キャリアでした(つまりALDH2活性が低下)。ALDH22キャリアとそうでないものを比較すると、アルコール摂取は、精子運動率(中央値20%[四分位範囲11%-42%]対43%[IQR31%-57%]、p=0.005)および精子前進運動率(19%[IQR11%-37%]対36%[IQR25%-53%]、p=0.008)について有意差を認め、ALDH22キャリアで低値でした。アルコール摂取者では、ALDH22キャリアは精子運動率(20% [IQR 11%–42%] vs 41% [IQR 19%-57%], p=0.02. 02)、精子前進運動率(19%[IQR 11%-37%] vs 37%[IQR17%-50%]、p=0.02)、総運動精子数(2800万[M、IQR 9-79M] vs 71M[IQR23-150M]、p=0.05)が、ALDH21/1個体と比べ、有意に低下していました。次に、ヒト精子におけるALDH2の発現は、ALDH22キャリアにおいて有意に低くなっていました(ALDH21/1 vs ALDH21/2, p=0.01; ALDH21/1 vs ALDH22/*2, p <0.001)。
結論として、ALDH2の遺伝子型を調べることは、禁酒のためのカウンセリングと相まって、男性の精液検査所見を改善する可能性があることが示唆されました。

# アルコール摂取がこの量より少ない場合は、差はありませんでした。

##ALDH2*1では差がありませんでした。

筆者の意見

学会発表の時と微妙に結果が違いますが、概ね同じと考えて良いと思います。
アンケートで1日2杯のアルコール飲料を飲む日が月に2回以上あると、精子運動率が有意に低下していましたが、それはALDH2活性が低下する遺伝子型(ALDH2*2)を持っている男性に限った場合のみでした。ALDH2タンパクの発現を精子の免疫組織染色を用いて検討しているのですが、きれいにミトコンドリア鞘が染まっていたのと、染まり具合がALDH2の遺伝子型にきれいに相関しているのが印象的です。また、これはアンケートで過去1ヶ月間のアルコールの摂取状況を回答してもらっているのですが、やはり妊活に際しては、アルコールに弱い方、強くない方はなるべくアルコールを控えた方がよさそうです。飲む場合は精液所見が1ヶ月程度悪化する可能性が高いことを承知で、女性パートナーの方とよく相談してから(または顔を思い浮かべながら)飲んでください。
妊活中でなければもちろん”節度ある量”の範囲(※)でお酒をお楽しみください。

※「節度ある飲酒量」としては、1日平均純アルコールで約20g程度。ただし、現在適量はないとされています。男性では少しのアルコールでも健康リスクとなります。

ビール(中瓶1本500ml)、清酒(1合180ml)、ウイスキー・ブランデー(ダブル60ml)

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 生活習慣

# 精液検査

# プレコンセプション

# 精液所見

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

プレコンセプションケアの人気記事

妊娠女性における葉酸サプリメント摂取状況と情報源(Public Health Nutr. 2017)

高血圧予備軍の男性は要注意!精子と妊娠率への影響 (Fertil Steril, 2025)

妊娠中マルチビタミン摂取の周産期転帰(Cochrane Database Syst Rev. 2017)

睡眠と生殖機能:男女妊孕能への影響(Journal of Circadian Rhythms. 2020)

食事性炎症指数(DII)と不妊:NHANES調査(Front Nutr. 2024)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

妊娠女性における葉酸サプリメント摂取状況と情報源(Public Health Nutr. 2017)

2025.12.09

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10