はじめに
不育症は施設により受けられる検査・治療に幅があります。
2025年より不育症検査としてβ2GPI/HLA-DR複合体に対する自己抗体(ネオ・セルフ抗体)が測定できるようになりました。
ポイント
ネオ・セルフ抗体は不育症と関連していることがわかっています。抗リン脂質抗体症候群(APS)を引き起こす抗体の標的と考えられているβ2GPIタンパクとAPSになりやすい型のHLAクラスⅡの複合体を細胞表面に出した細胞を作成し、患者の血液と反応させて、細胞表面の複合体と結合した抗体(ネオ・セルフ抗体)を検出します。
引用文献
Kenji Tanimura, et al. Arthritis Rheumatol. 2020 Nov;72(11):1882-1891. doi: 10.1002/art.41410.
論文内容
5つの大学病院で不育症女性227人に対し、新しい自己抗体(ネオ・セルフ抗体)と不育症危険因子、HLA-DR 免疫タイピングを検査した前向き多施設横断研究です。
妊娠可能な健康な女性208人(正常分娩既往あり、流産既往・自己免疫疾患既往はない女性としています。)をコントロール群として、これらの抗体測定の正常範囲とカットオフ値を設定しました。
危険因子の採血項目ですが、TSH(甲状腺機能亢進症は0.4μIU/ml以下、甲状腺機能低下症は2.5μIU/ml以上)、血清IgG aCL値(正常閾値<10単位/ml)、IgM aCL値(正常閾値<8単位/ml)、aCL/β2GPI値(正常閾値<1.8単位/ml)、LA(正規化比<1.3)を測定しました。IgG抗β2GPI値(正常閾値<20単位/ml)およびIgM抗β2GPI値(正常閾値<20単位/ml)、プロテインS活性(正常範囲60〜150%)、プロテインC活性(正常範囲67〜127%)、凝固第XII因子活性(正常範囲50〜150%)としました。
結果
ネオ・セルフ抗体の正常範囲(<52.6)はコントロール群の99パーセンタイルとしています。
不育症女性227人の危険因子は、子宮奇形(8.4%)、甲状腺機能障害(6.6%)、染色体核型異常(男性および女性パートナー)(4.8%)、aPL陽性(19.8%)、原因不明(53.3%)となっていて、ネオ・セルフ抗体は22.9%でした。危険因子別にネオ・セルフ抗体が陽性であった女性の割合は以下の通りでした:子宮奇形(19人中5人、26.3%)、甲状腺機能障害(15人中4人、26.7%)、女性および男性パートナーの染色体核型異常(11人中2人、18.2%)、aPL陽性(45人中17人、37.8%)、凝固第XII因子活性低下(21人中6人、28.6%)、プロテインS活性低下(35人中7人、20%)、プロテインC活性低下(4人中1人、25%)。不育症女性227人中121人(53.3%)は危険因子が見つかりませんでしたが、そのなかの24人(19.8%)がネオ・セルフ抗体陽性でした。ネオ・セルフ抗体陽性であった不育症女性では、陰性であった不育症女性と比べて、不育症になりやすいとされるHLA-DR4という遺伝子型の頻度が高くなっていました。
私見
ネオ・セルフ抗体は2015年のBlood誌に報告され、絨毛毛細管内皮細胞(Placental Vascular Endothelial Cells)を損傷する可能性にも触れられています。今後の研究の進展が期待されます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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