不育症

2020.11.17

流産した後、次の妊娠までどれくらい期間を開けた方がよいの?( Obstet Gynecol. 2016)

はじめに

早期流産を経験したカップルから、次の妊娠まで待機期間をどの程度設けるべきかという質問は日常的に受けます。多くの臨床医は3か月以上の待機を推奨し、WHOは6か月以上の待機を推奨してきました。しかし、これらの推奨を裏付けるデータは限定的で、むしろ流産直後の子宮の方が着床に適しているとの見解もあります。これまでの研究の多くは妊娠成立後の妊娠間隔(IPI)に着目しており、「妊娠を試み始めてから次の妊娠までの期間(intertrying interval)」を直接評価した研究は希少でした。今回、EAGeR試験のデータを用いて当該期間と妊娠予後を評価した二次解析をご紹介いたします。

ポイント

非異所性・非胞状奇胎の20週未満流産後、3か月以内に妊娠を試み始めても妊娠率・出生率は低下せず、むしろ短期間で出生に至る可能性が高くなります。

引用文献

Schliep KC, et al. Obstet Gynecol. 2016 Feb;127(2):204-12. doi: 10.1097/AOG.0000000000001159.

論文内容

流産日から次の妊娠を試み始めるまでの期間(intertrying interval)を曝露因子として、妊娠までの期間と出生率を比較することを目的とした、EAGeR試験(Effects of Aspirin in Gestation and Reproduction trial、2007–2011)の二次解析です。
EAGeR試験は、過去に1〜2回の流産歴をもつ18〜40歳の女性1,228人を対象とした多施設共同・ブロックランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験で、妊娠前低用量アスピリン投与の生殖予後への影響を評価しました。本二次解析では、最終妊娠転帰が自然流産(n=1,071、98.9%)または計画的中絶(n=12、1.1%)であった1,083人(最終流産が妊娠19週以下:99.8%、妊娠8週以下:54.1%)を対象とし、出生児・死産児・異所性妊娠・胞状奇胎を最終転帰とした女性は除外しました。対象者は最大6月経周期にわたり妊娠成立まで追跡され、妊娠成立例ではさらに分娩まで追跡されました。intertrying intervalは、対象者の自己申告による妊娠を試み始めた日から最終流産日を差し引いて算出しました。離散Cox比例ハザードモデルを用い、左側打ち切りと右側打ち切りを考慮した上で、年齢・人種・BMI・学歴・不妊症既往を調整した妊娠可能性OR(FOR:fecundability OR)と95%CIを推定しました。intertrying intervalはランダム化前に評価されており治療割付とは無関係と考えられましたが、低用量アスピリンが妊娠までの期間に影響することが既報で示されているため、追加調整も行いました。

結果

intertrying interval 0〜3か月のカップル(n=765、76.7%)は、3か月超のカップル(n=233、23.4%)と比較して、出生達成率が有意に高く(53.2% vs. 36.1%)、出生に至る妊娠までの期間が有意に短縮しました(中央値(IQR):5周期(3, 8)、調整FOR:1.71、95%CI:1.30–2.25)。妊娠率自体も有意に高く(68.9% vs. 51.1%、調整FOR:1.58、95%CI:1.25–2.00)、低用量アスピリンの追加調整後も推定値は実質的に変化しませんでした。3か月毎に区切った解析では、>3〜6か月を基準とした場合、0〜3か月のFORは1.24(95%CI:0.90–1.72)、>6〜9か月で0.90(95%CI:0.44–1.83)、>9〜12か月で0.83(95%CI:0.38–1.81)、>12か月で0.60(95%CI:0.38–0.95)であり、12か月超の長期待機例では妊娠可能性が有意に低下していました。一方、流産率(11.5% vs. 10.7%)、着床期周辺流産(5.0% vs. 4.7%)、早産(9.2% vs. 6.8%)、妊娠高血圧腎症(8.5% vs. 7.2%)、妊娠糖尿病(3.6% vs. 0.9%)など、いずれの妊娠合併症についても短期間群でリスク上昇は認められませんでした。多重代入法およびモンテカルロ・シミュレーションによる感度分析でも結果は頑健でした(出生に至るFORはそれぞれ1.49、95%CI:1.13–1.99および1.56、95%CI:1.18–2.06)。

私見

先行論文との対比では、短期間の妊娠再開を支持する報告として、Love ER, et al. BMJ, 2010(スコットランドの後方視的解析、6か月未満再妊娠群で出生率高く合併症リスク低下)、Goldstein RR, et al. Am J Obstet Gynecol, 2002(即時妊娠群と待機群で新生児予後に差なし)、Wong LF, et al. Am J Obstet Gynecol, 2015(EAGeR試験の先行解析、3か月以内再妊娠群で出生率と合併症に差なし)が一致した結論を示しています。一方、Conde-Agudelo A, et al. Int J Gynaecol Obstet, 2005(中南米の解析、6か月未満で母体・周産期予後悪化)、Bentolila Y, et al. J Matern Fetal Neonatal Med, 2013(反復流産後の3か月未満で予後悪化)といった反対の報告も存在しますが、これらは妊娠成立後の女性を対象としており、本研究のように妊娠前から前向きに追跡した設計とは異なる点に留意が必要です。

身体的な準備という観点では、本研究は20週未満の早期流産後に3か月以内で妊娠を試みても支障がないことを比較的強固なエビデンスで示しています。しかし、流産はカップルにとって大きな精神的ストレスをもたらすため、emotionalな準備状態は個別に評価する必要があります。Cuisinier M, et al. J Psychosom Obstet Gynaecol, 1996では、流産後の早期再妊娠と出生児の獲得が悲嘆を軽減するとの報告があり、心理面でも早期再開が有利に働く可能性があります。

私たちは患者様に対し、①流産後の精神的ストレスが緩和し次の妊娠に前向きに取り組める状態であり、②流産後に一度月経が再開して自身で排卵が確認できる状態であり、③子宮内膜厚に違和感がない、という三点が満たされれば、3か月待機せずともタイミング療法・人工授精治療は相談の上で開始可能と判断しています。ただし、凍結融解胚移植については、ホルモン環境や内膜の整備が予後を大きく左右するため、焦らず万全の状態が整うまで待機することを個人的にはお勧めしています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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