不育症

2026.05.26

不育症女性における子宮手術既往と次回妊娠予後(Fertil Steril. 2025)

はじめに

反復流産・習慣流産の背景には胚異数性が主たる原因ですが、そのほかにも子宮内膜の炎症、子宮形態異常、子宮内膜受容能の低下といった子宮内膜機能の障害が関与すると考えられています。後天的な子宮形態異常の代表が子宮内腔癒着(IUA)であり、流産手術後には最大20%、帝王切開後には2.8%に発生するとされます。今回、反復流産女性を対象に、流産手術および帝王切開既往と次回流産リスクとの関連を検討した英国多施設前向きコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

反復流産・習慣流産女性において、帝王切開既往および3回以上の流産手術既往は次回妊娠での流産リスクを上昇させる可能性があります。

引用文献

Charlotte Leeson, et al. Fertil Steril. 2025. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.10.036

論文内容

子宮手術が流産率に与える影響を明らかにすることを目的とした、英国3施設(Coventry、Birmingham、London)のNational Centre for Miscarriage Research が運用するTommy’s Net レジストリを用いた多施設前向きコホート研究です。
対象は2回以上の流産歴を有する18歳以上の女性1,473人で、ベースラインデータを後方視的に収集した後、次回妊娠予後を前向きに追跡しました。データ収集は2017年に開始され、本解析のためのデータ抽出は2023年3月に行われました。追跡は6ヶ月ごとのテキストメッセージおよび電話、次回妊娠時の初期超音波検査時に実施されました。曝露は流産手術既往(子宮内容除去術または手動真空吸引法)および帝王切開既往とし、いずれもベースライン登録時点の自己申告に基づいています。主要評価項目は登録後初回妊娠における流産(妊娠24週未満の自然流産)、副次評価項目は出生としました。効果指標はPoisson回帰によりRRと95%CIで算出し、母体年齢・BMI・喫煙・経産・ベースライン流産回数を交絡因子として調整しました。

結果

ベースラインで2回以上の流産歴を有する集団全体において、流産手術既往は次回流産リスクの明らかな上昇とは関連しませんでした(多変量RR 1.04;95%CI 0.89–1.20;P=0.646)。一方、帝王切開既往は次回流産リスクの上昇と関連しました(多変量RR 1.31;95%CI 1.03–1.66;P=0.029)。サブグループ解析では、3回以上の流産手術既往を有する女性は、待機的または薬物療法のみで管理された女性と比較して47%の流産リスク上昇を示しました(多変量RR 1.47;95%CI 1.17–1.83;P=0.001)。1回または2回の流産手術既往では明らかな関連は認められませんでした。帝王切開既往1回では多変量RR 1.34(95%CI 1.05–1.71;P=0.018)で有意なリスク上昇が認められました。ベースライン流産3回以上のサブ集団に限定すると、いずれかの帝王切開既往群は帝王切開既往なし群と比較して50%の流産リスク上昇を示し(多変量RR 1.50;95%CI 1.15–1.96;P=0.003)、3回以上の流産手術既往群でも40%の流産リスク上昇が認められました(多変量RR 1.41;95%CI 1.11–1.79;P=0.005)。副次評価項目である出生は、帝王切開既往群で多変量RR 0.83(95%CI 0.69–1.00;P=0.045)とわずかな低下を示しましたが、これは次回妊娠での流産リスク上昇により出生に至る妊娠が減少したことで説明されます。
流産後の絨毛染色体検査で「胎児組織が得られず検査不能であった割合」は、流産手術群で9.0%、薬物療法群で24.1%、待機療法群で29.3%でした。逆にいえば「染色体検査の結果が得られた割合」は流産手術群で90.2%、薬物療法群で75.9%、待機療法群で70.7%となります。

私見

これまでの先行研究は症例数が限られていました。 

流産手術と妊娠予後の関係について

Tzur Y, et al. Fertil Steril. 2021: 
早期流産203例で薬物療法と流産手術後の妊娠率を比較したところ、6ヶ月時点の累積妊娠率は68.0% vs. 65.1%(P=0.66)と差を認めず、流産手術が次回妊娠率に悪影響を及ぼさないことを示しました。 
Graziosi GC, et al. Hum Reprod. 2005: 
早期流産126例を対象としたRCTにおいて、ミソプロストールと流産手術を比較し、12週時点の妊娠率はRR 0.98(95%CI 0.68–1.40)で差がなく、両管理法間で次回妊娠成立に差がないことを報告しています。 
Trinder J, et al. BMJ. 2006(MIST試験): 
1,200例を待機・薬物・流産手術に無作為化したRCTで、感染症発生率は3群同等であった一方、計画外入院は待機49%・薬物38% vs. 手術8%と高率であり、流産手術が完全排出の確実性に優れることを示しました。 

帝王切開と次回妊娠予後の関係について 

Gurol-Urganci I, et al. Hum Reprod. 2013: 
システマティックレビューおよびメタアナリシスにおいて、帝王切開既往女性は経腟分娩女性と比較して次回妊娠率がRR 0.89(95%CI 0.87–0.92)と9%低下することを示し、帝王切開が将来の妊娠成立に負の影響を与える可能性を報告しています。 
Keag OE, et al. PLoS Med. 2018: 
システマティックレビューにおいて、帝王切開後妊娠は流産リスクがOR 1.17(95%CI 1.03–1.32)と上昇することを示し、帝王切開と次回流産との関連を支持する結果を示しました。 
Friedenthal J, et al. Am J Obstet Gynecol. 2021: 
体外受精による正倍数性単一胚移植を受けた女性の解析で、帝王切開既往女性は着床率および継続妊娠率が低下することを示し、ART領域でも帝王切開瘢痕の影響が示唆されています。 
 
本研究は、帝王切開を反復流産集団における将来流産のリスク因子として位置づけるべきであることを示唆しています。機序としては、IUA形成(流産手術後最大20%、帝王切開後2.8%)、子宮内膜マイクロバイオーム組成の破綻(Moreno I, et al. Microbiome. 2022)、帝王切開瘢痕症候群(niche)の形成(Vissers J, et al. Hum Reprod. 2020)などが想定されています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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