プレコンセプションケア

2025.03.15

妊活中の男性は超加工食品の取り過ぎに注意!

研究の紹介

超加工食品の摂取と精液所見(Led-Fertyl研究での解析)

Ultra-processed food consumption and semen quality parameters in the Led-Fertyl study.

Valle-Hita C, 他Hum Reprod Open. 2024 Jan 17;2024(1):hoae001. PMID: 38283622.

環境要因や生活習慣は、精液所見に影響を与えると考えられています。特に、果物、野菜、豆類、ナッツなどの未加工な食品や最小限の加工食品を豊富に含む健康的な食事をとり、赤身肉や加工肉、糖分を含む飲料の摂取を控えることは、精液所見の改善につながります。
しかしながら、近年、超加工食品(Ultra-processed food、UPF)の消費が急速に増加しています。これらの食品は栄養の質が低く、砂糖、塩分、脂肪、添加物などの成分が多く含まれているのが特徴です。また、糖尿病、高血圧、心血管疾患、がんなどの慢性疾患との関連も指摘されています。しかし、超加工食品の摂取が精液の質の低下と関係しているかどうかは、まだ明らかになっておらず、今回の研究ではこの点について検討しています。食品はNOVA分類*をもちいて分類しています。

要約

研究課題

超加工食品(UPF)の摂取は、精液の質の指標と関連しているのでしょうか?

研究のまとめ

生殖年齢の男性において、超加工食品の摂取量が多いほど、総精子数、精子濃度、および総精子運動率が低くなっていました。

これまでに知られていること

過去数十年間で増加している超加工食品(UPF)の消費は、糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患と正の関連があることが示されています。しかし、UPFの摂取が精液所見に与える影響についての科学的な証拠は依然として限られています。

この研究デザイン、対象者、研究期間

横断的分析を実施し、2021年2月から2023年4月にかけてLed-Fertyl研究(精液検査およびその他の男性生殖関連指標に関するライフスタイルおよび環境要因の研究)に登録された200名の健康な男性(平均年齢28.4 ± 5.5歳)のデータを用いました。

参加者/材料、設定、方法

超加工食品(UPF)の摂取量(総エネルギー摂取量に占めるUPFの割合)は、NOVA分類システム*に基づき、検証済みの143項目の半定量食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて推定しました。

主要な評価指標として、総精子数、精子濃度、精子生存率、総精子運動率、精子前進運動率、正常精子形態率を設定しました。精液検査のパラメーターは、位相差顕微鏡およびコンピューター支援精子分析(CASA)システムを用いて測定しました。
精液サンプルの採取と分析は、世界保健機関(WHO)の2010年基準に従って行いました。UPFの摂取量(3分位)と精液の質の指標との関連を推定するため、多変量線形回帰モデルを適用しました。

主な結果と偶然の影響

超加工食品(UPF)の摂取量が最も多い群(最高3分位)は、最も少ない群(最低3分位)と比較して、精子濃度(β: -1.42 × 10⁶ 個/ml; 95% CI: -2.72 ~ -0.12)および運動率(β: -7.83%; 95% CI: -15.16 ~ -0.51)が低いことが確認されました。
また、UPFの摂取量を総エネルギー摂取量の10%増加ごとに分析した場合、総精子数も同様に減少する傾向が見られました(β: -1.50 × 10⁶ 個; 95% CI: -2.83 ~ -0.17)。
さらに、UPF由来のエネルギーの10%を未加工または最小限加工食品由来のエネルギーに置き換えると、総精子数、精子濃度、総運動率、前進運動率、正常精子形態のすべての指標が向上することが示唆されました。

研究の限界と注意点

本研究は横断研究であるため、因果関係を明確に示すことはできません。また、測定誤差や報告バイアスを完全に排除することはできません。

研究結果の広い意味

本研究の結果は、超加工食品(UPF)の摂取が特定の精液検査の指標に影響を与える可能性を示唆しています。さらに、UPFの代わりに未加工または最小限加工食品を選択することで、精液の質に良い影響をもたらす可能性があります。
今後、異なる長期的なデザインの疫学研究で本研究の結果が再現されれば、これらの新たな知見は、生殖年齢の男性における不妊問題に対応するための予防・介入プログラムの改訂や設計に貴重な示唆を与える可能性があります。

表 超加工食品の摂取量と精液所見

超加工食品の摂取
(%、超加工食品からのエネルギーの割合)
精液所見のパラメータ 症例数 T1
n = 67
T2
n = 67
T3
n = 66
P値
pH 200 8.5 [8–8.5] 8.5 [8–8.5] 8.5 [8.5–8.5] 0.124
精液量(ml) 200 3.5 [2.4–4.2] 3.5 [3–4.7] 3.3 [2.5–4.5] 0.311
精子濃度(x106/ml) 200 55.5
[31.32–85.6]
51.08
[33.18–91.5]
41.5
[20.9–65.7]
0.037
総精子数 (x106/ml) 200 158.5
[104.5–286.3]
213.1
[126.8–332.5]
127.0
[72.3–245.4]
0.015
総精子運動率 (%) 200 61.2 ± 16.7 61.2 ± 15.8 56.3 ± 19.5 0.175
精子前進運動率 (%) 200 44.41 ± 18.0 45.1 ± 16.3 40.8 ± 17.7 0.312
精子正常形態率 (%) 199 10 [5–15] 8.5 [4.5–17] 8 [4.5–14] 0.587
精子生存率(%) 199 85 [79–91] 80 [72.5–85] 81 [74–87.5] 0.014

T1 三分位で超加工食品の摂取が最も少ない症例(reference)、T3 三分位で超加工食品の摂取が最も多い症例、T2はT1とT3の間の症例。

*NOVA分類

食品を加工度に基づいて4つのグループに分けるシステムです。これは、ブラジルの研究者によって開発され、食品の健康への影響を評価する際に使われます。以下が各グループの説明と代表的な食べ物です。

  1. 未加工または最小限加工食品 (Unprocessed or Minimally Processed Foods)
    – 説明: 自然のまま、または洗浄、乾燥、粉砕、低温保存などの最小限の加工のみが施された食品。
    – 代表例: 野菜、果物、ナッツ、全粒穀物、生肉、魚、卵、牛乳
  2. 加工調理材料 (Processed Culinary Ingredients)
    – 説明: 自然食品から抽出・精製されたもので、主に料理に使われる。単体ではあまり食べられず、他の食品と組み合わせて使用される。
    – 代表例: 食塩、砂糖、植物油、バター、デンプン
  3. 加工食品 (Processed Foods)
    – 説明: グループ1の食品に、グループ2の加工調理材料を加えて加工されたもの。長期保存や風味向上が目的で、比較的シンプルな加工を施した食品。
    – 代表例: 缶詰の野菜や果物、塩漬けの魚や肉(ハム、ベーコンなど)、チーズ、パン(シンプルな材料のみ)
  4. 超加工食品 (Ultra-Processed Foods, UPFs)
    – 説明: 工業的に大幅な加工が施され、食品添加物(保存料、着色料、香料、乳化剤など)を多用している食品。風味や保存性を高め、消費を促進するために作られる。
    – 代表例: インスタント麺、スナック菓子、炭酸飲料、ファストフード、加工肉(ソーセージ、ナゲット)、市販の菓子パン、甘味飲料
    この分類は、食品の健康影響を考える際に役立ちます。特に、超加工食品(NOVA 4)は過剰摂取が健康リスクと関連しているため、できるだけ未加工や最小限の加工食品を中心にすることが推奨されています。
    Monteiro CA, Nova D他. The star shines bright (food classification. Public health). World Nutr 2016;7:28–38.

筆者の意見

とてもわかりやすいデータでした。超加工食品を最も多くとっている方は、精液所見がもっとも良くなかったのですが、非加工食品に食事を置き換えていくと改善していくことを示唆する結果でした。健康な方を対象としているので精液所見はどの群でも良好なのですが、その中で差があったということでした。
なるべく精液所見をよくしていこうとする場合には、食事のことも考える価値は十分あることを再認識しました。超加工食品はどのようなものがあるかNOVA分類で紹介していますが、具体的にどのようなものがあるか容易に想像できるのではないでしょうか?私はグループ4のものを毎日食べてしまっています。ジャンクフードやお菓子はすぐ食べることができて美味しいですので贖うのが難しいですが、妊活中はもちろん、その後父親になってもそうでなくても健康のためにUPFは避けて過ごしていただければと思います。
長い記事になってしまいました。最後までお読みいただきありがとうございます。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

亀田メディカルセンターでは男性不妊外来を開設しております。
泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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