
はじめに
非閉塞性無精子症(NOA)で挙児希望のある男性では、TESA、conventional TESE、micro-TESEのいずれかの方法により外科的に精子を回収する必要があります。これらのうちmicro-TESEは、精子回収率が約42〜52%と最も高く、ゴールドスタンダードとされています。一方、mTESEや TESAで得られた精子を用いた体外受精・胚移植が、胚培養成績や妊娠予後に影響を及ぼすかは十分明らかでありません。今回、mTESE、TESA、自己射出精子、提供精子の4群で胚培養成績と妊娠予後を比較した米国のコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
NOAに対するmTESEで精子が得られ正倍数性胚が形成されれば、凍結融解胚移植後の妊娠予後は射出精子使用群と同等となりそうです。
引用文献
Haley Genovese, et al. Fertil Steril. 2026 Apr;125(4):632-639. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.11.009.
論文内容
mTESEおよびTESAで回収した精子と、自己射出精子および提供精子を用いたICSIにおける胚培養成績および妊娠予後を比較することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
2017年1月から2023年12月に、大学関連の民間クリニックで治療を受けた患者を対象としました。NOAに対するmTESE 211例、OAに対するTESA 156例、自己射出精子使用 9,074例、提供精子使用 536例の計9,977例を含めました。組み入れ基準は、自己卵子による初回ART周期でICSIを実施した症例とし、胚移植は単一の正倍数性凍結融解胚移植のみを対象としました。主要評価項目は受精率(成熟卵子数に対する受精胚数)と胚盤胞到達率(受精胚数に対する胚盤胞数)。副次的評価項目は精子回収率、臨床妊娠率、流産率、早産率、出生体重、出生率(LBR)でした。
結果
mTESEでの精子回収率は98/209(46.9%)でした。mTESE群の平均受精率は59.7%、TESA群は76.9%と、自己射出精子群(84.2%)および提供精子群(85.1%)と比較していずれも有意に低値でした(P<.0001)。さらにmTESE群はTESA群と比較しても受精率は有意に低値でした(P<.0001)。胚盤胞到達率はmTESE群で49.8%と、自己射出精子群(57.8%)および提供精子群(59.2%)と比較して有意に低値でしたが、TESA群(52.9%)との間に有意差は認めませんでした(P=.406)。TESA群の胚盤胞到達率は提供精子群より有意に低値(P=.017)でしたが、自己射出精子群との間に有意差は認めませんでした(P=.056)。臨床妊娠率はTESA群で79.4%と、自己射出精子群(67.6%)および提供精子群(65.5%)と比較して有意に高値(P=.027、P=.023)でしたが、mTESE群(75.0%)との間に有意差は認めませんでした。出生率はTESA群で69.1%と、自己射出精子群(55.7%)および提供精子群(55.3%)よりも高値(P=.015、P=.040)でしたが、TESA群とmTESE群(55.0%)の間に有意差は認めませんでした(P=.486)。流産率、早産率、出生体重については4群間で有意差は認めませんでした。新鮮精子と凍結精子のサブグループ解析では、受精率は新鮮精子(84.3%)で凍結精子(82.0%)より有意に高値(P<.0001)でしたが、胚盤胞到達率は両群とも57.7%と同等でした(P=.941)。
私見
本研究は、mTESEまたはTESAで回収した精子と、射出精子(自己および提供)を用いた胚培養成績および妊娠予後を直接比較した初の報告である点が大きな意義です。
NOA患者でmTESEを行った場合、最大の障壁は精子を回収できるか否かにあり、一旦精子が得られれば、受精率はやや低下するものの、胚盤胞到達率の絶対差は比較的小さく、患者への臨床的説明として安心感のある結果と言えます。
TESA群で臨床妊娠率および出生率が射出精子群より高値だったのは、TESA群の多くが過去に妊娠歴のある精管切除後症例であり精子の質が良好であった可能性をあげています。
精巣内精子は射出精子と比較してDNA断片化が低いとされること(Moskovtsev SI, et al. Fertil Steril. 2010)、また精子のエピジェネティック変化やsmall non-coding RNAおよびmiRNAが受精と初期胚発生に重要な役割を果たすこと(Yuan S, et al. Development. 2016)を挙げ、外科的精子と射出精子で遺伝学的に異なる可能性を示唆しています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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