
はじめに
PGT-A施行後の単一正倍数性凍結融解胚移植6,410周期を対象に、初回血清hCG値(4w0d)と出生予後を詳細に解析した大規模単施設後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
単一正倍数性胚移植後の初回血清hCG値は出生率を段階的に予測し、75.7 mIU/mLが最適閾値です。
引用文献
Clarke EA, et al. Fertil Steril. 2026. doi: 10.1016/j.fertnstert.2026.04.025.
論文内容
単一正倍数性胚移植後の初回血清hCG値に基づき出生予後を評価することを目的とした後方視的コホート研究です。単施設にて2016年9月から2024年6月に単一正倍数性胚移植を施行し、移植9日後に初回血清hCG陽性(≥2.5 mIU/mL)を呈した6,410周期を対象としました。初回hCG値により6群に層別化しました:Group 1(2.5~<11 mIU/mL)、Group 2(11~<25)、Group 3(25~<50)、Group 4(50~<75)、Group 5(75~<100)、Group 6(≥100)。主要評価項目はhCG陽性あたりの出生率とし、胚盤胞生検日(Day5/6/7)でのサブグループ解析も実施しました。隣接群間の比較にはGEEを用いたポアソン回帰モデルを用い、卵子年齢・移植時BMI・治療年で補正しました。さらにROC解析により出生に対する予測能を評価しました。
測定系は電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、Roche Diagnostics社製Cobas e(機能感度0.25 mIU/mL、検出範囲0.2–10,000 mIU/mL)を全周期で統一使用しました。
内膜調整法です。ホルモン調整周期98.5%、排卵周期下胚移植1.5%。ホルモン調整周期では経口micronized estradiolを最低9日投与後にプロゲステロン(筋注または経口+経腟併用)を開始し、投与開始6日目に胚移植を施行しました。排卵周期では主席卵胞径>17 mmでhCGトリガー投与、7日後に胚移植を施行し、黄体補充に経腟プロゲステロンを使用しました。
フォロー方法として、胚移植9日後に初回血清hCGを測定し、48時間後に再採血して妊娠の生存性を評価、妊娠5週時点で経腟超音波により妊娠部位を確認しました。
結果
全6,410周期におけるhCG陽性あたりの全体出生率は71.0%(95%CI 69.8–72.1%)でした。出生に至った最低初回hCG値は4.1 mIU/mLでした。
初回hCG群別の妊娠転帰
| 転帰 | Group 1 | Group 2 | Group 3 | Group 4 | Group 5 | Group 6 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 臨床妊娠 | 7.2% | 31.4% | 60.0% | 85.2% | 90.9% | 98.3% |
| 出生 | 1.6% | 11.6% | 35.5% | 63.8% | 76.1% | 87.9% |
| 化学的妊娠流産 | 86.4% | 62.0% | 38.4% | 13.7% | 8.7% | 1.9% |
| 臨床的流産 | 4.8% | 19.3% | 24.0% | 20.8% | 14.6% | 10.4% |
| 異所性妊娠 | 6.9% | 7.1% | 2.2% | 1.6% | 0.5% | 0.1% |
| 一卵性双胎 | 0% | 0% | 0.7% | 1.5% | 2.6% | 2.8% |
隣接群間の出生率比較(補正後)
補正因子:卵子年齢・移植時BMI・治療年
| 比較群 | aRR (95%CI) |
|---|---|
| Group 2 vs. Group 1 | 6.76 (3.02–15.11) |
| Group 3 vs. Group 2 | 3.08 (2.28–4.16) |
| Group 4 vs. Group 3 | 1.80 (1.59–2.04) |
| Group 5 vs. Group 4 | 1.16 (1.08–1.25) |
| Group 6 vs. Group 5 | 1.15 (1.10–1.21) |
初回hCG群別×胚盤胞生検日別の出生率
| 初回hCG群 | Day 5(n=3,769) | Day 6(n=2,443) | Day 7(n=198) | P |
|---|---|---|---|---|
| Group 1(2.5–<11) | 2.4% | 1.1% | 0% | 0.57 |
| Group 2(11–<25) | 9.2% | 14.4% | 10.0% | 0.34 |
| Group 3(25–<50) | 28.8% | 42.7% | 41.9% | <0.01 |
| Group 4(50–<75) | 62.3% | 65.6% | 62.9% | 0.74 |
| Group 5(75–<100) | 75.1% | 77.6% | 73.7% | 0.77 |
| Group 6(≥100) | 88.2% | 87.0% | 87.3% | 0.58 |
ROC解析
AUC 0.83(95%CI 0.81–0.84)と良好な識別能を示し、最適閾値はhCG 75.7 mIU/mL(感度86.7%、特異度66.7%、PPV 86.4%、NPV 67.3%)でした。
私見
PGT-A施行胚に絞った早期hCG動態の検討は、Hobeika E, et al. J Assist Reprod Genet. 2017の報告以来となりますが、この報告は症例数が限定的で複数胚移植を含んでいた点が限界とされていました。
初回hCG値と出生率の段階的関係は、新鮮胚や分割期胚を含む既報(Papageorgiou TC, et al. Fertil Steril. 2001;Kathiresan ASQ, et al. Fertil Steril. 2011;Oron G, et al. Fertil Steril. 2015;Ueno S, et al. J Assist Reprod Genet. 2014;Kidera N, et al. F S Rep. 2025)と一致しており、現代のART環境においても同様の傾向が確認されました。
低hCG値(<25 mIU/mL)が化学的妊娠流産および異所性妊娠リスク上昇と関連する点も、Wang Z, et al. Arch Gynecol Obstet. 2020;Wu Y, et al. J Ovarian Res. 2020などの先行報告と整合的です。
本研究で示された出生に至った最低初回hCG値4.1 mIU/mLという数値は、低値症例の患者カウンセリングにおいて、可能性は低いものの出生に至りうることを伝える上で実臨床的に有用な情報と考えます。
測定系の観点では、本研究はCobas e(Roche Diagnostics)のECLIAで機能感度0.25 mIU/mLという高感度系を統一使用しており、本研究の閾値(特に最低出生例の4.1 mIU/mL、最適閾値75.7 mIU/mL)を他施設へ外挿する際には測定系の違いに注意を要します。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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