はじめに
女性の加齢に伴い妊娠率が低下することはよく知られていますが、男性は高齢になっても精子を産生し一定の生殖機能を保つため、父親年齢が妊娠予後に及ぼす影響は明らかではなく、父親年齢と精液所見の異常との関連についても議論が分かれています。人工授精(IUI)は軽度男性因子・原因不明不妊・円錐切除後の頸管粘液減少などに広く用いられ、体外受精と比べてより自然な受精環境で、低侵襲かつ安価です。また体外受精のデータでは受精障害などの精子機能異常が覆い隠される可能性があるため、著者らはあえて人工授精のデータを用い、同一患者が複数周期を受けることによる相関を一般化推定方程式(GEE)で調整したうえで、父親年齢と妊娠予後・精子パラメータの関連を検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
父親の高年齢は、単独では人工授精後の妊娠率・出生率および精子パラメータに悪影響を強くは及ぼさないようです。
引用文献
Takayuki Tatsumi, et al. Reprod Med Biol. 2018;17(4):459-465. doi: 10.1002/rmb2.12222.
論文内容
父親の高年齢が人工授精後の妊娠予後および精子パラメータに及ぼす影響を評価することを目的とした後方視的研究です。生殖補助医療のデータでは精子機能障害の影響が覆い隠される可能性があるため、人工授精のデータが用いられました。
2012年4月から2016年5月までに国立成育医療研究センターで実施された人工授精を対象とし、40歳未満の女性における1576周期を解析しています。実施された2807周期のうち、沈殿精子または凍結融解精子を用いた65検体、2回法による85周期、結果不明の8周期、および妊娠率が低いと予想される40歳超の女性の1073周期を除外しています。排卵誘発はクロミフェンクエン酸塩50-150 mgを月経3日目または5日目から、あるいはゴナドトロピン37.5-75 IUを3日目から開始し、主席卵胞径18 mm超で必要に応じhCG 10000 IUを投与しました。子宮内膜厚7 mm超の症例にのみ人工授精を実施しています。精子はPercoll密度勾配遠心法で調整されました。主要評価項目は経腟超音波での胎嚢確認による臨床妊娠と出生です。交絡因子として男性年齢、女性年齢、喫煙状況、排卵誘発剤を選択し、同一患者内の相関を調整したGEE(ロジットリンク関数、二項分布)により調整ORを算出しています。
結果
全体の臨床妊娠率は7.0%(111/1576)、出生率は3.6%(86/1576)でした。妊娠周期では男性の平均年齢が非妊娠周期より有意に低く(38.0歳 vs 39.1歳、P < 0.001)、女性年齢も同様でした(35.9歳 vs 36.6歳、P = 0.002)。出生周期でも同様の傾向がみられました(男性37.8歳 vs 39.1歳、P = 0.001、女性35.6歳vs 36.6歳、P = 0.001)。妊娠転帰には自然流産18件、人工流産3件、転帰不明4件が含まれています。
一部の患者は最大18周期の人工授精を受けていました。同一患者内の相関と交絡因子を調整したGEEでは、男性年齢と妊娠予後との関連は消失しました(34歳以下を基準として、35-37歳の調整OR 1.54、95%CI 0.88-2.68、P = 0.129、38-40歳0.65、95%CI 0.36-1.17、41-43歳0.56、95%CI 0.28-1.12、44-46歳0.49、95%CI 0.17-1.36、47歳以上0.92、95%CI 0.40-2.10)。一方で女性38-40歳では妊娠率が有意に低下していました(調整OR 0.60、95%CI 0.36-0.98、P = 0.041)。出生についても同様の傾向でしたが、調整後は男女いずれの年齢とも有意な関連は認めませんでした(女性38-40歳の調整OR 0.59、95%CI 0.34-1.01、P = 0.053)。喫煙状況および排卵誘発剤は妊娠予後に影響しませんでした。男性年齢と女性年齢の間には有意な相関があり(r = 0.486)、父親高年齢群で妊娠率が低くみえたのは女性パートナーも高年齢であったためと考えられました。
精子濃度、精子運動率、総運動精子数は妊娠周期で非妊娠周期より有意に高い値でしたが(精子濃度6949 vs 6264×10⁶、P = 0.028、運動率42.7% vs 39.0%、P = 0.044、総運動精子数6557 vs 5830×10⁶、P = 0.015)、父親年齢と精液量、精子濃度、運動率、総運動精子数との間に関連は認められませんでした(それぞれr = −0.117、0.048、−0.117、−0.074)。
| 妊娠率 | 出生率 | ||
| 女性年齢 | 34歳以下 | 9.0% | 7.4% |
| 35-37歳 | 9.7% | 7.4% | |
| 38-40歳 | 4.7% | 3.4% | |
| 女性喫煙歴 | あり | 8.2% | 6.2% |
| なし | 6.8% | 5.2% | |
| 不明 | 11.1% | 9.7% | |
| 男性年齢 | 34歳以下 | 9.2% | 7.8% |
| 35-37歳 | 12.9% | 10.1% | |
| 38-40歳 | 5.3% | 3.8% | |
| 男性喫煙歴 | あり | 7.6% | 5.7% |
| なし | 6.3% | 5.0% | |
| 不明 | 11.2% | 8.6% | |
| 刺激方法 | 自然 | 6.8% | 5.0% |
| クロミッド | 7.4% | 5.8% | |
| HMG | 7.9% | 7.0% | |
| クロミッド+HMG | 4.0% | 4.0% | |
| その他 | 8.3% | 0% |
私見
父親年齢と人工授精成績との関連については、これまで一貫した見解が得られていません。
父親年齢の影響を認める立場
- Belloc S, et al. Reprod Biomed Online. 2008:17000周期を超える人工授精の解析で、38歳超の女性で妊娠率が有意に低下し(OR 0.67、95%CI 0.56-0.80)、45歳超の男性でも境界域で低下(OR 0.81、95%CI 0.65-1.02)、30歳未満の男性の妊娠率12.3%に対し45歳超では9.3%と報告しています。
- Humm KC, et al. Fertil Steril. 2013:男性高年齢の影響を精子DNA断片化の観点から論じています。
父親年齢の影響を認めない立場
- Bellver J, et al. Reprod Biomed Online. 2008:2204周期の人工授精で父親年齢と妊娠率の関連を認めませんでした。
個人的には、人工授精成績は周期あたり妊娠率が8-10%程度です。父親年齢の人工授精での影響を見ようとした場合にはビッグデータでの報告としないと統計的有意差に到達しない程度のあったとしても微々たる差なのかなと感じています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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