
はじめに
日本の生殖補助医療(ART)は、2022年4月の保険適用開始により転換期を迎えました。適用初年度から2023年にかけて治療周期数は急増しましたが、2024年の統計ではその流れに変化が現れています。今回、日本産科婦人科学会(JSOG)から発表された2024年の臨床実施成績が報告されましたのでご紹介いたします。総治療周期数が保険適用後はじめて減少に転じた一方で、出生児数は過去最多を更新し、同時に多胎率が上昇した点が最大の特徴です。
ポイント
2024年日本のART治療は総治療周期55万265周期と前年から減少に転じましたが、出生児数は8万6,473人と過去最多を更新し、多胎率は4.15%へ上昇しました。
引用文献
日本産科婦人科学会. 2024年ARTデータブック(2024年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績). 令和8年度 登録・調査小委員会報告.
https://www.jsog.or.jp/medical/641
まとめ
① 治療規模と推移
2024年の総治療周期数は550,265周期で、2023年の561,664周期から11,399周期(−2.0%)減少し、保険適用開始以降はじめて減少に転じました。採卵周期数、新鮮胚移植周期、凍結融解胚移植周期はいずれも減少した一方、全胚凍結周期のみが171,601周期(+1.9%)と増加を続けており、採卵周期に占める全胚凍結率は59.8%から61.7%へ上昇しています。単年最多は39歳(45,124周期)で、40歳以上が193,148周期・全体の35.1%を占めます。この構成は前年から大きく変わっていません。
| 項目 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2023→2024 |
|---|---|---|---|---|---|
| 総治療周期数 | 498,140 | 543,630 | 561,664 | 550,265 | −2.0% |
| 採卵周期数 | 255,560 | 275,296 | 281,665 | 277,968 | −1.3% |
| 全胚凍結周期 | 129,008 | 158,247 | 168,343 | 171,601 | +1.9% |
| 新鮮胚移植周期 | 32,959 | 31,510 | 24,743 | 18,521 | −25.1% |
| FET周期数 | 239,428 | 264,412 | 276,153 | 268,923 | −2.6% |
| 総移植周期数 | — | — | 296,104 | 282,374 | −4.6% |
② 治療成績と多胎
44歳を除く全年齢層で移植あたり妊娠率が1.5〜2.7ポイント一様に上昇しており、流産率も44歳を除くすべての層でわずかに低下しています。培養技術の向上だけでこの一様な上昇を説明するのは困難で、複数胚移植の増加が主たる寄与と考えられます。
出生児数は86,473人と過去最多を更新し、前年比+1,436人。このうち96.1%にあたる83,088人が凍結胚(卵)由来です。2024年の出生数686,173人に対して12.6%、約8人に1人がARTによる出生という計算になります。
多胎は4.15%・4,857件で、34歳以下3.78%(1,851/48,986)、35-39歳4.33%(1,986/45,871)、40歳以上4.61%(1,020/22,117)と、高年齢層ほど多胎率が高いという結果でした。年齢別では40歳(5.21%)、41歳(4.77%)、37歳(4.64%)が上位です。加齢により本来は多胎が減るはずであり、これは複数胚移植の選択率が高年齢層で高いことの反映と解釈されます。
年齢別詳細成績表(30歳〜44歳、2歳単位)〔2024年〕
| 年齢群 | 移植周期数 | 妊娠周期数 | 妊娠率/総ET | 流産率/総妊娠 | 生産周期数 | 多胎数 |
| 30-31歳 | 24,191 | 12,864 | 53.2% | 17.8% | 10,063 | 485 |
| 32-33歳 | 31,712 | 16,119 | 50.8% | 18.8% | 12,529 | 601 |
| 34-35歳 | 38,981 | 18,863 | 48.4% | 21.1% | 14,208 | 771 |
| 36-37歳 | 40,711 | 18,511 | 45.5% | 23.3% | 13,559 | 824 |
| 38-39歳 | 44,100 | 17,627 | 40.0% | 28.6% | 11,939 | 738 |
| 40-41歳 | 40,394 | 13,603 | 33.7% | 36.4% | 8,182 | 683 |
| 42-43歳 | 27,791 | 6,803 | 24.5% | 43.9% | 3,592 | 292 |
| 44歳 | 5,924 | 947 | 16.0% | 51.0% | 429 | 29 |
| 全年齢合計 | 282,374 | 116,974 | 41.4% | 25.0% | 83,491 | 4,857 |
2023年からの変化(妊娠率/総ET)
| 年齢群 | 2023年 | 2024年 |
|---|---|---|
| 30-31歳 | 50.5% | 53.2%(+2.7) |
| 32-33歳 | 48.9% | 50.8%(+1.9) |
| 34-35歳 | 46.9% | 48.4%(+1.5) |
| 36-37歳 | 43.5% | 45.5%(+2.0) |
| 38-39歳 | 38.3% | 40.0%(+1.7) |
| 40-41歳 | 31.5% | 33.7%(+2.2) |
| 42-43歳 | 22.7% | 24.5%(+1.8) |
| 44歳 | 15.4% | 16.0%(+0.6) |
凍結胚を用いた治療成績〔2024年〕
| 項目 | 融解胚子宮内移植 |
|---|---|
| 治療周期総数 | 267,269 |
| 移植総回数(1以上) | 262,667 |
| 妊娠数 | 111,946 |
| 移植あたりの妊娠率 | 42.6% |
| 単一胚移植数 | 220,219 |
| 単一胚移植率 | 83.8% |
| 単一胚移植での妊娠率 | 43.2% |
| 流産数/妊娠あたり流産率 | 28,074/25.1% |
| 単胎数(胎囊) | 106,014 |
| 多胎妊娠総数(双胎/三胎/四胎) | 4,651(4,562/81/8) |
| 胎囊数多胎率 | 4.2% |
| 生産分娩数 | 79,904 |
| 移植あたり生産率 | 30.4% |
| 出生児数 | 82,739 |
| 単胎/双胎/三胎/四胎生産 | 76,774/2,925/37/1 |
| 異所性妊娠/死産分娩/減数手術 | 526/248/35 |
| 転帰不明(明記) | 1,800 |
※本表は「融解胚子宮内移植」の列です。これに「その他」312人および凍結融解未受精卵由来37人を加えた83,088人が、③の凍結胚(卵)由来出生児数にあたります。
③ 累積出生児数
累積出生児数は108万9,822人に達し、うち74.1%(807,359人)が凍結胚(卵)由来です。2024年単年では96.1%が凍結由来であり、新鮮胚移植は臨床的に極めて減少傾向にあるといえます。
| 治療法 | 治療周期総数 | 出生児数 | 累積出生児数 |
|---|---|---|---|
| 新鮮胚(卵)を用いた治療 | 281,342 | 3,385 | 282,463 |
| ─ 体外受精を用いた治療 | 86,626 | 1,391 | 149,452 |
| ─ 顕微授精を用いた治療 | 194,716 | 1,994 | 133,011 |
| 凍結胚(卵)を用いた治療※ | 268,923 | 83,088 | 807,359 |
| 合計 | 550,265 | 86,473 | 1,089,822 |
※凍結融解胚を用いた治療成績と、凍結融解未受精卵を用いた治療成績の合計。
私見
保険適用後3年目にあたる2024年は、量的拡大が止まった年といえます。
総治療周期数550,265周期(前年比−2.0%)を、保険診療導入直後の需要の一巡だけで説明するのは不十分であり、「治療対象人口そのものの縮小」が寄与していると考えます。日本人人口(人口動態統計の諸率算出に用いた人口、各年10月1日現在)でみると、25〜39歳女性は2021年9,436,250人から2023年9,145,286人へ2年で約29万人(−3.1%)減少し、とくに35〜39歳女性は3,480,779人から3,310,911人へ2年で約17万人(−4.9%)減りました。治療周期数が最も多い年齢が39歳であることを踏まえれば、周期数の2%減はむしろ対象人口の縮小率と比べて健闘した水準とも読めます。
出生数側はさらに急峻で、2022年770,759人、2023年727,288人、2024年686,173人、2025年671,236人(概数)と減少が続いています。ただしART由来の出生児比率は上昇を続けており、2024年は86,473/686,173=12.6%、約8人に1人がARTによる出生です。結婚したものの子どもができないご夫婦にとって、ART治療は十分な社会的役割を果たしていると考えられます。
もう一点の重要な課題は、複数胚移植の増加です。凍結胚の単一胚移植率は83.8%であり、残る16.2%(42,646回)が2個以上の移植と推定されます。多胎妊娠4,676例のほぼ全数がここから発生していると考えると、複数胚移植周期あたりの多胎率は約11.0%に達します。しかも移植あたり妊娠率は単一胚移植のほうが高く(43.2% vs 39.4%)、「2個移植すれば妊娠率が上がる」という前提をこのデータは支持していません。得られるものは限定的で、失うもの(多胎)は確実だといえます。
これは臨床現場の判断の誤りではなく、胚移植回数に制限がある保険診療下で1回あたりの出生率を最大化しようとする合理的行動の帰結、すなわち制度設計の問題です。したがって、①原則としての単一胚移植の再周知と多胎リスク説明の徹底、②保険診療における胚移植回数カウント方法の見直し、③多胎率の施設別公表指標化——の3点を、周産期予後の観点から学会・行政に向けて指摘されるべき論点と考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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