体外受精

2024.07.22

反復着床不全のGnRHアゴニスト下垂体抑制の効果(Fertil Steril. 2019)

はじめに

以前より子宮内膜症がある女性にはGnRHアゴニスト単独による下垂体抑制によるpre-treatmentが体外受精結果に奏功するという考えがあります。この研究の大半は2000年代に行われたものが多く、新鮮胚移植主流の時代の報告でした。最近、凍結融解胚移植でも同様の効果があると考えられており、GnRHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬の併用によるpre-treatmentはもっと効果があるのではないか?と考えた治療計画を示した報告をご紹介いたします。

ポイント

子宮内膜症、腺筋症がない反復着床不全女性に、GnRHアゴニスト単独による下垂体抑制によるpre-treatmentは効果なく、GnRHアゴニストの下垂体抑制+アロマターゼ阻害薬の併用によるpre-treatmentが効果的である可能性があります。

引用文献

Naama Steiner, et al. Fertil Steril. 2019 Jul;112(1):98-104. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.03.021.

論文内容

2回の反復着床不全患者において、GnRHアゴニストの下垂体抑制+アロマターゼ阻害薬の併用によるpre-treatmentが、GnRHアゴニスト単独による下垂体抑制によるpre-treatmentまたは無治療が3回目の凍結融解胚移植成績を改善するかどうかを比較したレトロスペクティブコホート研究です。
2回の胚盤胞移植で結果が出なかった不妊女性523名(40歳未満女性、甲状腺機能、子宮形態、凝固機能に異常がないこと、子宮内膜症、腺筋症がないこと)を対象としています。①GnRHアゴニストの下垂体抑制+アロマターゼ阻害薬の併用によるpre-treatment:176名、②GnRHアゴニスト単独による下垂体抑制によるpre-treatment:143名、③pre-treatmentなし:204名とし、生殖医療結果を比較検討しました。

結果

患者背景(女性年齢、AFC、basal FSH値、不妊期間、妊娠既往、満期分娩既往)に差は認めませんでした(P>.05)。臨床的妊娠率は、①GnRHアゴニストの下垂体抑制+アロマターゼ阻害薬の併用によるpre-treatment群で、②GnRHアゴニスト単独による下垂体抑制によるpre-treatment群、③pre-treatmentなし群より高くなりました(それぞれ63%、42%、40%;P<.0001)。生児出生率も同様の傾向でした(56%、36%、34%;P<.0001)。②GnRHアゴニスト単独による下垂体抑制によるpre-treatment群と③pre-treatmentなし群で差を認めませんでした。

私見

子宮内膜症、腺筋症がない反復着床不全女性に2ヶ月治療を中断することを推奨するには確固たるエビデンスが欲しいところです。GnRHアゴニストの下垂体抑制+アロマターゼ阻害薬の併用によるpre-treatmentが効果的という報告を出しているのは今回の報告を出しているMichael H Dahanグループばかりです。他のグループによる追試に期待です。
子宮内膜症があると卵子と子宮内膜に下記のような影響があるとされています。

1.卵丘細胞複合体

  • 子宮内膜症患者の卵子卵丘複合体の顆粒膜細胞では酸化ストレスマーカーが有意に上昇している。
  • 子宮内膜症ドナー卵子は、正常ドナー卵子と比較して着床率・臨床的妊娠率ともに低い。
  • 子宮内膜症患者では、G2/M期にある顆粒膜細胞数が減少し、S期にある顆粒膜細胞数の増加とアポトーシス細胞の増加と関連する。

2.子宮内膜症の子宮内膜

  • 子宮内膜症患者の子宮内膜では、インテグリンανβ3の発現が低下している。ανβ3インテグリンの重要な制御因子は転写因子であるHOXA10であり、この因子も軽症の子宮内膜症でも低下している。
  • TNF-αは健康女性では子宮内膜増殖を抑制するが、子宮内膜症の女性では子宮内膜増殖を促進する。
  • 表面上皮の不均一性の増加、腺細胞および間質の有糸分裂の減少、基底細胞の空胞化、子宮内膜厚の減少、神経内分泌細胞の変化が認められる。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 反復着床不全(RIF)

# ロング法、ショート法

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