はじめに
子宮筋腫は生殖年齢女性の20%~40%に認められる最も一般的な良性腫瘍です。筋腫合併妊娠では、胎盤位置異常、胎位異常、前期破水、早産、帝王切開、産後出血、胎児発育不全などの周産期合併症リスクが上昇するとされています。筋腫核出術の手術方法として、開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、術式の違いに注目した妊娠・分娩予後を比較検討した研究をご紹介いたします。
ポイント
開腹筋腫核出術後は妊娠高血圧や妊娠糖尿病リスクが高く、腹腔鏡下筋腫核出術後は出血や子宮破裂などの合併症リスクが高いため、いずれもハイリスク妊娠として管理が必要です。患者背景が異なること、年代が古いこと、重症度が統一されていないことなどから、妊娠高血圧や妊娠糖尿病リスクに関しては今後の報告に注目です。
引用文献
Ginod P, et al. Fertil Steril. 2025. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.321
論文内容
開腹筋腫核出術と腹腔鏡下筋腫核出術後の妊娠・分娩予後を比較する後方視的コホート研究です。2004年から2014年のアメリカの入院データベースを用いて、開腹手術13,868例、腹腔鏡手術338例を対象に解析。年齢、BMI、慢性高血圧、妊娠前糖尿病で調整して各アウトカムを比較しました。
結果
腹腔鏡群におけるリスク低下:
– 妊娠高血圧:aRR 0.12 (95% CI: 0.006–0.24)
– 妊娠糖尿病:aRR 0.14 (95% CI: 0.06–0.34)
– 早産:aRR 0.36 (95% CI: 0.23–0.55)
– 帝王切開:aRR 0.01 (95% CI: 0.007–0.01)
一方、腹腔鏡群では以下のリスク上昇が見られました:
– 子宮破裂:aRR 6.1 (95% CI: 3.2–11.63)
– 産後出血:aRR 3.54 (95% CI: 2.62–4.8)
– 子宮全摘:aRR 7.74 (95% CI: 5.27–11.4)
– 輸血:aRR 3.34 (95% CI: 2.54–4.4)
– 肺塞栓症:aRR 7.44 (95% CI: 2.44–22.71)
– DIC:aRR 2.77 (95% CI: 1.47–5.21)
– 母体死亡:aRR 2.04 (95% CI: 1.31–3.2)
– 子宮内胎児死亡:aRR 2.99 (95% CI: 1.72–5.2)
私見
開腹群における妊娠高血圧・妊娠糖尿病の増加は、子宮筋層の血流障害や瘢痕による胎盤形成障害が関与している可能性が考えられます。ただし、患者背景の違いも大きく影響しているため、今後の追試が必要です。
腹腔鏡群では経腟分娩の試みが多く(84%)、それに伴い子宮破裂や出血性合併症が増加しています。縫合不全などの要因も疑われますが、全例に腹腔鏡を推奨する時代ではなく、個別の症例ごとに適切な術式選択が求められます。
筋腫核出術後妊娠は、いずれの術式であってもハイリスク妊娠であり、慎重な周産期管理が必要です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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