一般不妊

2025.06.24

慢性子宮内膜炎の子宮鏡診断基準:メタアナリシス(Am J Obstet Gynecol. 2025)

はじめに

慢性子宮内膜炎は基本無症状ですが不妊と関係しており、診断をつけられるのであれば早期発見・介入が好ましい病態の一つです。しかし診断基準が明確に定まっておらず、病理検査、NGSとRT-PCR 、子宮鏡検査が挙げられますが、一番低コスト・侵襲度が低いのは子宮鏡検査となります。慢性子宮内膜炎の子宮鏡診断基準のメタアナリシスをご紹介いたします。

ポイント

子宮鏡診断基準は慢性子宮内膜炎の検出において高い精度と感度を示します。特殊な場合は除き、慢性子宮内膜炎スクリーニング検査は費用面・侵襲度を考えると子宮鏡検査で十分かもしれません。

引用文献

Gaetano Riemma, et al. Am J Obstet Gynecol. 2025 Jul;233(1):12-24.e4. doi: 10.1016/j.ajog.2025.03.005.

論文内容

子宮鏡診断基準を組織病理学的解析(免疫組織化学の有無を問わず)と比較して慢性子宮内膜炎の検出における診断精度を評価することを目的とした研究です。MEDLINE、Scopus、SciELO、Embase、ClinicalTrials.gov、Cochrane Central Register of Controlled Trials、LILACS、学会発表録、国際対照試験登録データベースを日付制限や言語制限なしに検索しました。子宮鏡基準と組織病理学的(免疫組織化学の有無を問わず)診断を比較して子宮鏡による慢性子宮内膜炎の診断精度を推定したランダム化、前向き、または後向き研究を選択しました。主要評価項目は診断オッズ比、AUC-ROC、感度、特異度、副次評価項目は陽性尤度比と陰性尤度比としました。

結果

13研究が子宮鏡基準(微小ポリープ:micropolyps、局所充血:focal hyperemia、間質浮腫:stromal edema、イチゴ様パターン:strawberry pattern)を子宮内膜病理学的解析と比較しました。すべての研究をプールした結果、診断オッズ比は40(95%CI、12-133)でした。AUC-ROCは0.93(95%CI、0.90-0.95)で、非常に高い診断精度と相関していました。感度と特異度はそれぞれ84%(95%CI、0.68-0.93)と89%(95%CI、0.75-0.95)でした。また、陽性および陰性尤度比はそれぞれ7.4(95%CI、3.2-17.0)と0.19(95%CI、0.09-0.39)でした。

私見

子宮鏡所見を慢性子宮内膜炎の検出を行う上でどのように説明したら良いかは下記の通りとなります。

診断オッズ比(DOR)= 40
「子宮鏡検査を行うことで、慢性子宮内膜炎かどうかの判断精度が、検査をしない場合と比べて40倍良くなる」

陽性尤度比(PLR)= 7.4
「子宮鏡で異常所見が見つかった患者は、異常所見がなかった患者と比べて、実際に慢性子宮内膜炎を患っている可能性が7.4倍高い」

陰性尤度比(NLR)= 0.19
「子宮鏡で異常所見がなかった患者は、異常所見があった患者と比べて、実際に慢性子宮内膜炎を患っている可能性が約5分の1に減る」

Moreno らの報告では、NGSとRT-PCRの一致率は91.67%であったのに対し、RT-PCRと組織病理学+子宮鏡の一致率は41.54%と大幅に低かったとされています。ただし、NGSとRT-PCRでわかる微生物DNAやRNAの存在は活動性感染を確認するものではなく、陰性予測値が低くなります。子宮鏡単独では正常所見との見極めが難しい場合があったり、施設間・手技者のばらつきが大きいというデメリットもあります。費用面を気にしなければ、総合的には子宮鏡とRT-PCRの組み合わせがよいのかもしれませんね。

文責:川井清考(WFC group CEO)

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# 慢性子宮内膜炎

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