培養

2023.08.05

卵子の保管場所について

前回の記事では「受精胚」の保管場所について説明しました。
今回は「卵子」の保管場所について説明します。「受精胚」は卵子と精子が受精した後の状態ですが、「卵子」は精子と受精する前の状態です。

「卵子」で凍結保存する目的は大きく分けて二つあります。
1. 妊孕性温存
2. 社会的卵子凍結

1の妊孕性温存は、結婚される前の女性が抗ガン剤治療等により卵巣の機能が低下する前に予め卵子を凍結保存しておくことが目的となります。その他の女性特有の疾患を克服するために卵子凍結が推奨される場合もあります。

2の社会的卵子凍結は、女性がキャリアを優先するため結婚が遅くなる(=女性年齢が上がって妊娠が難しくなる)可能性を見据えて、若いうちに卵子を凍結保存しておくことが目的となります。最近は社会的卵子凍結が福利厚生に含まれている企業もあると聞いています。

いずれにせよ、現在、卵子凍結の需要が高まっています。余談ですが、以前見学に伺ったメキシコ・グアダラハラの病院では、ご夫婦で体外受精をしに来ているにも関わらず、一部の卵子は受精させずに卵子の状態で凍結していました。理由を聞いたら、メキシコは離婚率が高いので離婚した後の新しいパートナーとの治療に備えてと聞いて驚きました。

「卵子」の凍結保存は基本的には「受精胚」と同じですが一部違うところがあること、「卵子」の凍結保存場所に対する当院の考え方をお伝えしたいと思います。

「受精胚の凍結について」でお話したのと同様、1ケーンの中に最大5本の保存容器を収納するところまでは全く同じです。

「卵子」の凍結保存をする上で「受精胚」と異なる部分は保存容器に保管する数です。「受精胚」の場合、1保存容器に保管するのは1個のみとしていましたが、「卵子」の場合、1保存容器に2個(最大3個)保管することにしています。

現在、お腹の中に戻す受精胚の数は原則1個です。したがって、保存容器に保管する受精胚の数も1個になります。なぜならば、仮に保存容器に2個保管すると、この保存容器から1個だけ融解することはできないからです。融解するときは保存容器に保管されている全ての受精胚/卵子をまとめて全て融解しなければなりません。保存容器に2個保管してあれば、融解するときは2個同時です。仮に保存容器には2個保管してあるけど、お腹の中に戻したいのは1個だけという場合は、同時に2個融解した後に、残りの1個は再度凍結しなければならなくなります。これが、受精胚の凍結保存では原則1個の保存容器に1個の受精胚を保管する理由となります。

卵子凍結の保管料はクリニックによってまちまちです。個数が増えるにつれ保管料も上がっていくのが一般的です。当院の保管料は卵子の個数による金額の変更はせず「ケーン1本」当たり何円で値段を設定する予定にしています。仮に1ケーンに卵子が2個しか保管されていない場合でも、1ケーンに卵子が10個保管されている場合でも保管料は同じです。当然1ケーンに保管できる卵子の数に上限はありますが、上限を超えなければ卵子の数が何個であっても保管料は同じです。仮にケーン1本をマンションのお部屋に、卵子を住人に例えると、1部屋の賃料をお払い頂ければ何人住んで頂いても追加料金は発生しない(上限はあります)というイメージになります。

卵子凍結の場合は、受精胚の場合と異なり、1保存容器に2個(場合によっては最大3個)保管することにしています。この理由は二つあります。

一つ目は1ケーン当たりに保管できる卵子の数を多くしたいからです。一般的に、1ケーンに保管できる保存容器は5本です。保存容器1本に卵子を1個保管したら1ケーン当たり最大5個までしか保管できません。仮に保存容器1本に卵子を2個保管したら1ケーン当たり最大10個保管できることになります。場合によっては保存容器1本に卵子を3個保管します。この場合1ケーン当たり最大15個保管できる計算になります。1保存容器に2-3個保管することは技術的に全く問題ありません。

二つ目は1保存容器に卵子を1個だけ保管するメリットがあまり無いからです。受精胚まで育ててから凍結保存するのと卵子で凍結保存するのでは状況が全く異なります。卵子が受精胚になるまでには少なくとも、凍結融解後の生存、受精、順調な発育の3つの過程を経なければなりません。おおざっぱに計算すると10個の卵子から妊娠する可能性の高い受精胚まで育つのは2個しかありません。

そのため、卵子1個だけ解凍しても質の良い受精胚を凍結できる保証はありません。したがって、凍結卵子を使用して妊娠成立を目指すのであれば、まとめて卵子を融解する必要があり、まとめて使用するために卵子凍結の場合は1保存容器に2-3個保管することにしています。

以上、「卵子」の凍結保存場所に対する当院の考え方を御理解頂けたら幸いです。

文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵子凍結

亀田IVFクリニック幕張 生殖医療事業管理部 培養管理室長

平岡 謙一郎

亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士。広島県立大学大学院修了(博士)。体外受精の中心となる受精・培養・凍結について専門知見に基づき紹介している。

この記事をシェアする

そのほか(培養)に関連するタグ

あわせて読みたい記事

受精卵の保管場所について

2023.07.29

培養の人気記事

卵子の大きさ

受精前と受精後で透明帯の大きさが変わる?

精子の大きさ

動画で見る顕微授精の流れ⑤卵子への精子注入_精子注入_頭から(動画)

精子の頭の幅について

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25