はじめに
卵巣予備能低下(DOR:diminished ovarian reserve)、早発卵巣不全(POI:Premature Ovarian Insufficiency、POF:Premature Ovarian Failure)、卵巣反応不良(POR:poor ovarian response)は混同されて使われることが多くあります。これは明確な定義が定まっていないことが原因です。それぞれ使い方が異なりますので、以下に簡単に記載します。
ポイント
早発卵巣不全(POI/POF)、卵巣反応不良(POR)、卵巣予備能低下(DOR)は混同されやすい概念です。本記事では診断基準や考え方の違いを整理し、適切な理解と臨床での使い分けを解説しました。
論文内容
●早発卵巣不全(POI/POF)
血中FSH値高値(40IU/L以上)、3ヵ月以上の続発性無月経、40歳未満という3つの特徴によって診断されることが一般的です。早発閉経とは異なり、排卵がみられる場合があることを考慮すると、POIの用語を使用することが多いようです。
Eric Scott Sills, Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2009 Sep;146(1):30-6. doi: 10.1016/j.ejogrb.2009.05.008.
Amber R Cooper, et al. Fertil Steril. 2011 May;95(6):1890-7. doi: 10.1016/j.fertnstert.2010.01.016.
●卵巣反応不良(POR)
現在の主流は「Bologna基準」と「POSEIDON基準」です。
① Bologna基準
A P Ferraretti, et al. Hum Reprod. 2011 Jul;26(7):1616-24. doi: 10.1093/humrep/der092.
(A) 40歳以上、あるいは他のPORリスク因子(ターナー症候群、FMR1遺伝子変異、卵巣手術既往、抗がん剤治療後など)
(B) 標準的な卵巣刺激において3個以下の回収卵子数
(C) AMH <0.5~1.1 ng/mL、あるいはAFC(胞状卵胞数)<5~7個
→ 少なくとも2項目を満たすもの
② POSEIDON基準(Patient-Oriented Strategies Encompassing IndividualizeD Oocyte Number)
Carlo Alviggi, et al. Fertil Steril. 2016 Jun;105(6):1452-3. doi: 10.1016/j.fertnstert.2016.02.005.
- 第1群:35歳未満で、刺激前卵巣予備能が十分あり(AFC≧5、AMH≧1.2ng/mL)、予期せぬ卵巣反応が不良である患者
- 第2群:35歳以上で、刺激前卵巣予備能が十分あり(AFC≧5、AMH≧1.2ng/mL)、予期せぬ卵巣反応が不良である患者
- 第3群:35歳未満で、刺激前卵巣予備能が低い患者(AFC<5、AMH<1.2ng/mL)
- 第4群:35歳以上で、卵巣予備能が低い患者(AFC<5、AMH<1.2ng/mL)
●卵巣予備能低下(DOR)
明確な診断基準はありません。早発卵巣不全(POI/POF)は含めないとする考え方が一般的です。 卵巣反応不良(POR)の定義から、AFC 5〜7個、AMH 1.1〜1.2 ng/mLをカットオフとして用いられることが多いです。
J Cohen, et al. J Assist Reprod Genet. 2015 Dec;32(12):1709-12. doi: 10.1007/s10815-015-0595-y.
Lisa M Pastore, et al. J Assist Reprod Genet. 2018 Jan;35(1):17-23. doi: 10.1007/s10815-017-1058-4.
文責:川井清考(WFC group CEO)
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