不育症

2024.06.10

不育症/体外受精女性の分娩前後のうつ状態(J Reprod Immunol. 2022)

はじめに

産後うつ病(PPD)は、日本では女性の約10%が罹患しているとされています(Yamashita et al. 2000)。精神疾患既往、肥満、妊娠中および妊娠前のうつ病、妊娠中の不安、低所得、ストレスの多いライフイベント、社会的サポートの欠如が産後うつ病の危険因子であると報告されている。
日本の環境省が実施するエコチル調査(全国規模の出生コホート研究であるJapan Environment and Children’s Study(JECS))の結果を用いて国内の不育症/体外受精女性の分娩前後のうつ状態を調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

反復流産と体外受精妊娠は産後うつ症状に影響を及ぼしません。体外受精妊娠は妊娠中および産後うつ症状は減少し、反復流産後妊娠は妊娠中後期のうつ症状が増加していました。

引用文献

Ayano Otani-Matsuura, et al. J Reprod Immunol. 2022 Aug:152:103659. doi: 10.1016/j.jri.2022.103659.

論文内容

反復流産後妊娠と体外受精妊娠が妊娠中および産後のうつ症状に影響を及ぼすかどうかを大規模出生コホート研究にて比較検討しました。対象は2011年1月から2014年3月までにエコチル調査に参加された99,202名の妊婦としました。ケスラー心理的苦痛尺度(Kessler Psychological Distress Scale)は、妊娠初期、中後期、産後1年に実施しました。エジンバラ産後抑うつ尺度は、産後1ヶ月と6ヶ月に実施しました。

結果

出産経験のない女性は、妊娠中および産後を通じて、うつ症状の有病率が高まりました。重度うつ症状の有病率は、子供がいない習慣流産で妊娠中後期に高まりました。体外受精妊娠は、出産経験のない女性において、すべての妊娠期間中および出産後1ヵ月と6ヵ月におけるうつ症状の有病リスク低下と関連していました。

私見

産後うつ病は母親の自殺や児童虐待の重要な危険因子となります。妊娠したら終わり、出産したら終わりではなく、しっかりしたサポート体制を確立していくことが重要なのかと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 不育症(RPL)

# 免疫不妊・不育

# 周産期合併症

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

不育症における過剰妊孕性と低妊孕性の比較分析(J Reprod Immunol. 2023)

2025.06.18

不育症管理の治療指針(第3版:令和7年5月改訂):検査について

2025.06.12

反復流産女性における凍結融解胚移植後の早産/低体重出生予後(Fertil Steril. 2024)

2025.03.14

原因不明不育症患者に対する着床前遺伝子検査(PGT-A)の有用性(Fertil Steril. 2025)

2025.02.21

ドメイン1特異的anti-β2GPI抗体と抗ホスファチジルセリン・プロトロンビン抗体の不育症予後(Obstet Gynecol. 2025)

2025.01.23

不育症の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

不育症の免疫療法:米国2025治療ガイドライン(Am J Reprod Immunol. 2025)

流産後RPOCに対するGnRHアンタゴニスト経口薬(レルゴリクス)の有効性(Front Med. 2025)

高用量アスピリン療法は肥満患者の重症妊娠高血圧腎症予防に効果的か?(Am J Obstet Gynecol. 2025)

流産予防に経口プロゲステロン製剤は効くの?(Hum Reprod. 2020)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

妊娠女性における葉酸サプリメント摂取状況と情報源(Public Health Nutr. 2017)

2025.12.09

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10