不育症

2024.07.11

化学流産は自己卵子でも卵子提供でも変わらない(Hum Reprod. 2024)

はじめに

生化学的妊娠(化学流産)は検査方法や測定する時期にもよりますが、全妊娠の5~26%で起きているとされています。さまざまな研究から、染色体異常を含めた卵子・胚の質、肥満、飲酒などの母体因子、免疫学的や血栓症などの不育症で認められる素因、精子の質、子宮内膜胚受容能のずれなどが病態と考えられていますが、今のところ明確な答えには行きついていません。 
今回、自己卵子・提供卵子由来を含めたPGTやERAを行った際の生化学的妊娠割合を報告した調査がでてきましたのでご紹介いたします。 

ポイント

凍結融解胚移植後の生化学的妊娠率は、自己卵子と提供卵子の間で差はありません。 

引用文件

E Munoz, et al. Hum Reprod. 2024 May 22:deae106.  doi: 10.1093/humrep/deae106. 

論文紹介

PGT-A、ERAによる個別化胚移植、提供卵子の使用は、凍結融解胚移植における生化学的妊娠(化学流産)率に影響を与えるかどうかを調査したレトロスペクティブコホート研究です。2013年1月から2022年1月に自己卵子由来(2,399周期)および提供卵子由来(1,342周期)の凍結融解単一胚移植3,741周期における生化学的妊娠率を分析しました。自己卵子由来年齢は未試験 36.3歳:950症例、PGT-A  38.2歳:1,310症例、ERAを用いたpET 35.2歳:30症例、PGT-A+ERAを用いたpET 38.2歳:109症例でした。提供卵子由来年齢は未試験 40.3歳:1055症例、PGT-A  41.0歳:132症例、ERAを用いたpET40.1歳:140症例、PGT-A+ERAを用いたpET 40.2歳:15症例でした。 
胚盤胞移植後11日目(4週2日)に血清β-hCGを測定し、7-10日後(5週2日から5週5日)に経膣超音波検査で胎嚢を確認しました。妊娠判定で血清β-hCG値>10 UI/lであり、妊娠5週にて経腟超音波検査で胎嚢が認められず、血清β-hCGの低下が確認された場合に生化学的妊娠と診断しました。着床率は、経腟超音波検査での胎嚢数を移植胚数で割ったものと定義しました(Zegers-Hochschild et al.) 

結果

自己卵子由来の全生化学妊娠率は8.2%(95%CI[7.09-9.33])でした。未検査胚移植で7.5%[5.91-9.37]、PGT-Aで8.8%[7.32-10.47]、ERAを用いたpETで 6.7%[0.82-22.07]、PGT-A+ERAを用いたpETで6.5%[2.65-12.90]でした。群間で有意差は認められませんでした(P = 0.626)。多変量解析でも、PGT-Aでの調整オッズ比は1.154[0.768-1.735](P = 0.49)、PGT-A+ERAを用いたpET では0.885[0.330-2.375](P = 0.808)でした。提供卵子由来の全生化学的妊娠率は4.9%[3.76-6.14]でした。未検査胚移植で4.7%[3.46-6.10]、PGT-Aで6.8%[3.16-12.55]、ERAを用いたpETで 5.0%[2.03-10.03]、PGT-A+ERAを用いたpETで0%[0.00-21.80]でした。群間で有意差は認められませんでした(P = 0.578)。多変量解析でも、PGT-Aでの調整オッズ比は1.669[0.702-3.972](P = 0.247)、ERAを用いたpET では1.189[0.433-3.265](P = 0.737)でした。多変量解析において、自己卵子由来と提供卵子由来を比較しても生化学的妊娠率に差を認めませんでした。 

私見

あくまで、今回の生化学的妊娠率は凍結融解胚移植での成績であり、自然妊娠の生化学的妊娠率を反映したものではありません。 

今回の報告も過去の報告もあわせて評価すると生化学的妊娠率は正常核型胚でも8%前後はありそうですね。未試験データや提供卵子由来データをみても、35歳くらいまでの生化学的妊娠率を聞かれたら5-10%程度とこたえるのが無難そうです。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 流産、死産

# 卵子凍結

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

体外受精後の中期流産リスク因子(F S Rep. 2025)

2026.03.13

流産後RPOCに対するGnRHアンタゴニスト経口薬(レルゴリクス)の有効性(Front Med. 2025)

2025.10.28

反復流産患者における生化学的流産の臨床的意義:正倍数性胚移植による検討(Reprod Med Biol. 2025)

2025.10.10

中絶処置後のエストロゲンゲル内膜保護作用(Hum Reprod. 2024)

2024.11.28

RhD陰性妊婦の妊娠初期流産・中絶に対する取り扱い(Am J Obstet Gynecol. 2024)

2024.09.20

不育症の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

Th1/Th2比測定は不妊治療に意味があるの?(Am J Reprod Immunol. 2021)

不育症の免疫療法:米国2025治療ガイドライン(Am J Reprod Immunol. 2025)

RhD陰性妊婦の妊娠初期流産・中絶に対する取り扱い(Am J Obstet Gynecol. 2024)

反復流産に男性因子(精液・精子)が影響する?( Clin Chem. 2019) 

不育症・着床不全に対するイントラリピッド(Am J Reprod Immunol. 2021)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30