体外受精

2024.10.15

レスベラトロールにおける生殖機能への影響

はじめに

レスベラトロールは、植物や赤ワインに含まれる天然のポリフェノール化合物で、様々な抗炎症作用や抗酸化作用をもち、細胞のミトコンドリア活性を改善するとされています。ヒトでの結果を示した報告をご紹介します。レスベラトロールを含んだマルチビタミンでの検討しか2024年現在ランダム化比較試験はなさそうです。

ポイント

レスベラトロールを含むマルチビタミンによる前処理は、卵巣のFSH刺激に対する感受性を上げる可能性があります。

引用文献

A Conforti, et al. J Ovarian Res. 2024 Apr 15;17(1):81. doi: 10.1186/s13048-024-01391-7.

論文内容

卵巣反応不良患者に対する無作為化試験

卵巣予備能(AMH>1.2ng/ml)を有する35歳以上の女性を対象に、レスベラトロールの補充が体外受精の結果に及ぼす影響を評価するために計画されました。卵巣刺激前3ヵ月間、プラセボまたはレスベラトロール(1日150mg)ベースのマルチビタミンを無作為に割り付けました。年齢と卵巣予備能に応じて、150-300IU/day rFSH開始用量で刺激しました。GnRHアンタゴニストフレキシブルプロトコル、トリガーはuhCG 10000 IUで実施しました。

結果

2019年1月から2022年12月に実施され、37名レスベラトロール群と33名対照群で比較検討しました。レスベラトロール群と対照群で回収卵子数、生化学的妊娠率、臨床的妊娠率、生児出生率に差は認められませんでした。レスベラトロールベース群では、FORTやFOIなどの卵巣反応性を示す指標の増加を認めました(それぞれ、0.92 vs. 0.77 p= 0.02、0.77 vs. 0.64 p = 0.006)。

引用文献

Sandro Gerli, et al. J Matern Fetal Neonatal Med. 2022 Dec;35(25):7640-7648. doi: 10.1080/14767058.2021.1958313.

論文内容

卵巣反応不良患者に対する無作為化試験

卵巣刺激前3ヵ月間、レスベラトロール(1日150mg)ベースのマルチビタミンがICSI周期に及ぼす影響を評価するために計画されました。

結果

2019年1月から2020年3月に実施され、40名レスベラトロール群と50名対照群で比較検討しました。レスベラトロール群では対照群に比べ、回収卵子数およびMII数が多くなりました(それぞれp= 0.03およびp= 0.04)。
レスベラトロール群では受精率増加(p= 0.004)、分割胚増加(p= 0.01)、胚盤胞増加(p= 0.01)、凍結胚増加(p= 0.03)となりました。
生化学的妊娠、臨床的妊娠率、生児出生率、流産率に有意差は認められませんでした。

私見

この2報に使用されているレスベラトロールを含んだマルチビタミンの含有はレスベラトロール総量150mg、葉酸400 mcg、ビタミンD 25 mcg、ビタミンB122.5 mcg、ビタミンB6 1.4 mgとなります。
良好胚ができない患者が摂取希望をされた場合は、現段階でのエビデンスを提供してあげることが好ましいと思います。
卵巣感受性があがるけれど、胚移植後の成績が改善しないのは、①症例数が足りないから、②卵質の異数性までの改善が見込めないから、③着床時内膜への負の影響が懸念されるから、などが考えられます。
Ochiai AらはReprod Biomed Online. 2019(doi: 10.1016/j.rbmo.2019.03.205.
)にて着床への負の影響を示しています。良い胚ができたら(全胚凍結とし凍結確認時などに:共同著者の黒田先生案)、胚移植周期前にレスベラトロール内服は中断するのが現在のエビデンスではよいかもしれません。
卵巣感受性をみる指標はこれらがあります。

Follicle Output RaTe (FORT)

Genro VK, et al. Hum Reprod. 2011;26:671–677. doi: 10.1093/humrep/deq361.
Gallot V, et al. Hum Reprod. 2012;27:1066–1072. doi: 10.1093/humrep/der479.

Follicle-to Oocytes Index (FOI)

Alviggi C, et al. Front Endocrinol (Lausanne) 2018;17(9):589. doi: 10.3389/fendo.2018.00589. [
Vaiarelli A, et al. J Assist Reprod Genet. 2023;40(6):1479–1494. doi: 10.1007/s10815-023-02792-1.

OvarianSensitivity Index (OSI)

Biasoni V, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2011;9:112. doi: 10.1186/1477-7827-9-112.

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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