体外受精

2024.12.19

着床前検査(PGT-A)は生児獲得率を改善せず:クリニック運営形態との関連(J Assist Reprod Genet. 2024)

はじめに

最近、色々な出資形態の不妊治療クリニックがでてきています。医師が個人開業、大学病院・公立・私立総合病院が展開する病院、ベンチャーキャピタルなどの投資会社が運営するクリニックなどです。特にベンチャーキャピタルなどの投資会社が運営するクリニックは他のクリニック運営より財務リターンをバックとして求められることが多く、着床前検査などのadd-on検査を過度に勧めることが懸念されたりしています。今回、米国全国データバンクで調査されたPGT-A実施比率とクリニック成績、クリニック運営形式とPGT-A実施割合を調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

PGT-Aの積極的な実施は生児獲得率を改善せず、特に35歳未満の若年層で有害となる可能性があります。米国ではベンチャー投資家などが運営する体外受精クリニックがPGT-Aを多く実施していることがわかりました。

引用文献

Patrizio P, et al. J Assist Reprod Genet. 2024. doi:10.1007/s10815-024-03340-1

論文内容

米国疾病予防管理センター(CDC)に報告された90%以上のIVFクリニックのデータを分析し、年齢層別(<35, 35-37, 38-40, 41-42, ≥43歳)にPGT-A実施率と生児獲得率の関連を調査しました。同時に、PGT-A利用がクリニック運営形式(医師、アカデミア/総合病院/軍、または株式/ベンチャーキャピタル所有)に関連しているかどうかを調査しました。

結果

PGT-A低実施クリニック(0-20%)と高実施クリニック(80-100%)を比較したところ、全年齢層で生児獲得率は高実施クリニックで有意に低下しました(36.8%から29.8%, P<0.0001)。

特に35歳未満の若年層で生児獲得率の低下が顕著でした(50.6%から45.6%, P<0.0001)。

クリニックの所有形態分析では、投資会社/ベンチャーキャピタル所有のクリニックでPGT-A高実施率の傾向が顕著でした(P<0.0001)

私見

PGT-Aの実施がIVF成績を改善しないばかりか、特に若年層で有害となる可能性を示唆しています。自家卵子を用いた体外受精133,494周期のSARTデータセットでも40歳以上、特に42歳以上の年齢層を除いて、すべての年齢層でPGT-Aによる累積出産率の低下を示していたので同様の結果です(Kucherov A, et al. J Assist Reprod Genet. 2023;40(1):137–49.)。投資会社/ベンチャーキャピタル運営のクリニックでPGT-A高実施率の傾向は、日本でも同様の流れがありますね。儲かるからか、既得権益を崩すことに大義を掲げているのかよくわかりませんが、体外受精の「産業化」や「コモディティ化」と呼ばれるそうです。誰が立ち上げようが実施する医師が善良な判断ができれば不妊治療施設に善悪はありません。お金儲けだけを目的としたクリニックが増えないように祈るばかりです。ただ、選ぶのは患者様ですが。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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