
はじめに
体外受精技術の進歩にもかかわらず、胚移植における胚選択は依然として重要な課題です。従来の胚評価は形態学的評価や着床前遺伝学的検査(PGT-A)に基づいていますが、これらの方法だけでは「高品質」胚であっても出生率は65%程度に留まります。形態学や染色体正常性以外の予測因子の探索として胚盤胞形成コホートに着目した報告をご紹介いたします。
ポイント
胚盤胞形成率の高い卵子コホートから得られた胚盤胞は、年齢、形態、正常核型を調整後も着床率が有意に高い。
引用文献
David Huang, et al. Fertil Steril. 2025 Jun;123(6):1062-1071. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.12.006.
論文内容
異なる卵巣刺激コホートから得られた胚盤胞が、卵子年齢、形態学、染色体正常性を調整した上で着床率に差があるかを検討した後向きコホート研究です。自己卵子による卵巣刺激・体外受精・顕微授精後に選択的単一凍結胚盤胞移植を受けた患者を対象としました。
胚盤胞形成率を卵巣刺激コホートの品質指標として定義しました。具体的には、各刺激周期において2PN胚のうち、どの程度が胚盤胞まで発育したかを示す割合として算出しました。評価項目は、①全拡張胚盤胞形成率(全拡張胚盤胞数÷2PN数)、②正常核型胚盤胞形成率(正常核型胚盤胞数÷2PN数)、③5日目胚盤胞形成率(5日目胚盤胞数÷2PN数)、④5日目正常核型胚盤胞形成率(5日目正常核型胚盤胞数÷2PN数)の4つです。着床の定義は、単一凍結融解胚移植後の血清hCG値が5 mIU/mL超とされています。
結果
4,292個胚盤胞は2,600名3,010刺激周期由来でした。研究対象の平均年齢±標準偏差は36.2±3.6歳でした。コホートあたりの採卵数および2PN数の中央値(四分位範囲)はそれぞれ17個(12-24)および11個(8-16)でした。全拡張胚盤胞数および5日目胚盤胞数の中央値は6個(4-9)および2個(1-4)でした。PGT率は63.0%でした。正常核型胚盤胞数および5日目正常核型胚盤胞数の中央値はそれぞれ2個(1-4)および1個(0-2)でした。全体的胚盤胞形成率の中央値は60.0%(43.5%-75.0%)、正常核型胚盤胞形成率21.4%(13.3%-33.3%)、5日目胚盤胞形成率20.0%(8.7%-35.2%)、5日目正常核型胚盤胞形成率9.1%(0.0%-18.2%)でした。すべての胚盤胞形成パラメータは年齢と逆相関しました。卵子年齢、採卵数、胚形態学、正常核型を調整した多変量混合効果ロジスティック回帰分析では、全体的胚盤胞形成(aOR 1.04、95%CI 1.01-1.08)、5日目胚盤胞形成(aOR 1.05、95%CI 1.01-1.09)、5日目正常核型胚盤胞形成(aOR 1.10、95%CI 1.03-1.18)と着床率との間に正の関連が示されました。
私見
体外受精における卵巣刺激周期間の「コホート効果」の存在を示す重要な知見です。
胚盤胞形成率が高いコホートからの胚は、同じ形態学的グレードや染色体正常性を有していても着床率が高いという点です。複数の刺激周期を実施し貯胚した患者における胚移植の優先順位決定や、刺激の最適化に役立つ可能性があります。
今回の研究は同一個人間でのコホートの違いではないので、個人的遺伝背景なのか、周期依存性なのかは注視していく必要があると思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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