体外受精

2025.09.17

単一胚盤胞移植後の品胎妊娠―発生頻度と発生機序について(J Assist Reprod Genet. 2025)

はじめに

単一胚移植(SET)は多胎妊娠を減少させることで世界の標準的治療となってきています。自然妊娠での一卵性双胎の発生率は約0.4%(250名に1名)とされていますが、生殖補助医療では0.7-5%と高くなることが知られています。一卵性品胎妊娠は数万分の1以下という極めて稀な現象ですが、単一胚盤胞移植(SBET)後の発生が散発的に報告されており、その発生機序の解明と患者カウンセリングの重要性が注目されています。

ポイント

単一胚盤胞移植後の一卵性品胎妊娠は極めて稀(数万分の1以下)ですが、完全にリスクを排除することはできません。

引用文献

Ariel Woods, et al. J Assist Reprod Genet. 2025 Jul 28.  doi: 10.1007/s10815-025-03593-4.

論文内容

単一胚盤胞移植(SBET)後の一卵性品胎妊娠2症例を報告し、一卵性分割の疫学と推定機序に焦点を当てた研究です。 

症例1:

単角子宮を有する29歳女性で、単一正倍数性胚盤胞移植後に三絨毛膜三羊膜の品胎妊娠となりました。妊娠6週で3つの妊娠嚢を確認しましたが、1つは自然消失し、選択的減胎術後に36週で健康な単胎を出産しました。 

症例2:

34歳女性で、未検査胚盤胞移植後に一絨毛膜二羊膜双胎と単胎からなる三胎妊娠となり、35週で生児3名(2310g、2230g、1280g)を帝王切開で出産しました。 

結果

著者らの施設では2020-2024年に5904回のSETを実施し、1.6%が双胎妊娠、品胎妊娠は本報告まで0例でした。日本の全国ART登録研究(937,848周期)では、SET後の一卵性分割率が1.4%、SBETでのリスクが1.8倍高いことが示されています。

私見

症例1の三絨毛膜三羊膜型は各胎児が独立した胎盤・羊膜を持ち比較的安全ですが、症例2の一絨毛膜二羊膜双胎+単胎型は胎盤共有による双胎間輸血症候群のリスクがあります。 

一卵性分割の発生メカニズムについては、従来のCornerモデル(受精後の分割時期で絨毛膜性が決定)に対し、近年新たな理論が提唱されています。 

体外受精で一卵性分割が増加する要因:

  1. 透明帯への影響:着床前診断(1.5倍リスク増加)、アシステッドハッチング(1.2倍リスク増加)、顕微授精による透明帯操作 
  2. 培養環境:温度・pH変化、培養液中の低カルシウム濃度への長時間暴露 
  3. 胚盤胞特有のメカニズム:内細胞塊(ICM)品質低下による細胞接着減弱、「多点空洞化」による分割、「8の字型孵化」による異常分離

最新の報告では、マウスモデルで胞胚腔形成が複数部位で同時進行することが確認されており、これが一卵性三胎の発生機序を説明する有力な仮説となっています。 

重要なのは、単一胚移植でも一卵性多胎妊娠のリスクを完全に排除できないという事実です。 

イスタンブールコンセンサスでは、2個のICMを有する胚盤胞の移植前に十分な患者カウンセリングを推奨しており、将来的には多胎リスクの高い胚の移植回避につながる可能性があります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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