
はじめに
着床不全の原因として胚側因子に加え、ポリープ、筋腫、癒着などの子宮腔内病変が関与すると考えられており、子宮鏡検査はこれら病変検出のために行われることが多いです。これまでに反復IVF不成功例を対象とした研究で子宮鏡施行後の妊娠率上昇が報告され、初回IVF前にもルーチンで子宮鏡検査を行う施設が少なくありません。しかし初回IVF前の子宮鏡検査の有効性を検証した質の高いエビデンスは乏しいのが現状でした。今回、初回IVF前のルーチン子宮鏡検査が出生率を改善するかを検証したオランダ多施設共同RCT(inSIGHT試験)をご紹介いたします。
ポイント
経腟超音波で子宮腔に異常を認めない初回IVF予定女性に対して、ルーチンの子宮鏡検査は出生率を改善しません。
引用文献
Smit JG, et al. Lancet. 2016 Jun 25;387(10038):2622-2629. doi: 10.1016/S0140-6736(16)00231-2.
論文内容
初回IVF治療周期前のルーチン子宮鏡検査が出生率を改善するかを評価することを目的とした、オランダの大学病院7施設および総合病院15施設で実施されたプラグマティック多施設共同RCTです。経腟超音波(2D)で子宮腔に異常を認めず、過去に子宮鏡検査歴がない初回IVFまたはICSI予定の不妊女性を対象とし、子宮鏡群(IVF開始前1〜3か月以内に子宮鏡を施行し、検出された腔内病変を治療)と即時IVF群に1:1で無作為に割り付けました。2回以上の流産歴や月経間出血のある女性は除外しました。割り付けはWebベースで施設別に層別化し、可変ブロック法を用いました。腔内異常はポリープ、筋腫、癒着、子宮形態異常と定義しました。子宮鏡は外来・無麻酔(疼痛時は傍頸管ブロック許容)で月経周期早期〜中卵胞期に施行し、各施設最大2名の婦人科医が担当しました。介入の性質上、参加者・医師・アウトカム評価者のマスキングは行いませんでした。主要評価項目は無作為化から18か月以内の継続妊娠(妊娠12週超で胎児心拍を確認)に至る出生率で、intention-to-treat解析を行いました。サンプルサイズは出生率を30%から40%に上昇させると想定し、α 5%・検出力80%で各群370人と算出しました。
結果
2011年5月25日から2013年8月27日までに750人を登録し、子宮鏡群373人、即時IVF群377人に割り付けました。最終的に主要評価項目の解析対象は子宮鏡群369人、即時IVF群373人でした。両群のベースライン特性は概ね同等で、平均年齢はいずれも33歳、平均不妊期間は子宮鏡群2.6年・即時IVF群2.1年、平均BMIは25 vs. 24でした。不妊原因(重複あり)は男性因子が最多(57% vs. 52%)、次いで原因不明(30% vs. 28%)、WHO-II排卵障害(12% vs. 13%)、卵管因子(9% vs. 11%)、子宮内膜症(4% vs. 5%)であり、喫煙率のみ即時IVF群でやや高値でした(18% vs. 12%)。子宮鏡群373人のうち、325人(88%)が子宮鏡を施行されました。施行されなかった44人の理由は子宮鏡施行前の妊娠13人、スケジュール調整11人、個人的理由6人、子宮鏡への恐怖5人、来院せず2人、関係終了2人、不明5人でした。無作為化から子宮鏡施行までの中央値は20.6日(IQR 10.6–33.6)でした。施行例325人のうち29人(9%)は疼痛または内子宮口通過困難により完遂できず、ほとんど(28人)が全身麻酔下での再施行を辞退しました(理由はIVFの遅延を望まない、全身麻酔への抵抗)。子宮鏡で37人に43病変を検出し(経腟超音波正常例の12%)、31病変が治療されました。具体的に言及された病変としては、中隔(1人で切除、5人はプロトコル上切除せず)、卵管口部のポリープ(疼痛のため1人未治療)、筋腫(grade I 1人、grade II 1人を技術的困難で未治療)が挙げられます。
主要評価項目である18か月以内の継続妊娠による出生率は、子宮鏡群197人(53%)、即時IVF群189人(51%)であり、有意差は認められませんでした(RR 1.05、95%CI 0.92–1.21、p=0.46)。リスク差は2%(95%CI –5%〜10%)でした。胚移植あたりの着床率(31% vs. 28%、RR 1.11、95%CI 0.94–1.31、p=0.23)、臨床妊娠率(27% vs. 26%、p=0.71)、継続妊娠率(21% vs. 21%、p=0.69)、出生率(21% vs. 21%、p=0.75)にも有意差はありませんでした。出生に至った受胎の内訳は、新鮮胚移植が両群で約67%(140/209 vs. 133/200)、凍結融解胚移植が16〜20%(34/209 vs. 39/200)、自然妊娠が13〜14%(29/209 vs. 25/200)、IUI周期が1〜3%でした。一方、胚移植あたりの流産率は子宮鏡群で有意に高く(33% vs. 23%、RR 1.43、95%CI 1.06–1.93、p=0.018)、特に生化学的流産が高頻度でした(15% vs. 8.7%、RR 1.69、95%CI 1.02–2.82、p=0.043)。多胎妊娠は子宮鏡群8%(17/209)、即時IVF群4%(8/200)でした(p=0.08)。出生に至った妊娠までの期間中央値は子宮鏡群161日 vs. 即時IVF群141日で有意差はなく(p=0.52)、Kaplan-Meier曲線でも継続妊娠到達時間に差はありませんでした(HR 1.06、95%CI 0.87–1.29、log-rank p=0.55)。
Per-protocol解析でも同様の結果(RR 1.04、95%CI 0.91–1.20、p=0.57)でした。子宮鏡完遂例において、検出された病変を治療した女性(25人中16人 64%)、未治療の病変を有する女性(12人中7人 58%)、子宮鏡正常女性(259人中143人 55%)の間で出生率に有意差はありませんでした(治療 vs. 未治療 p=0.69)。著者らは感度分析として「未治療例で出生に至っていない女性が全員出生したと仮定しても」主要評価項目に有意差は生じませんでした(RR 1.08、95%CI 0.95–1.2、p=0.22)。
私見
先行研究との対比では肯定派と否定派の両方が存在します。ただ、質が高い研究をして、この論文が一般的に示されることが多いです。
経腟超音波の診断精度(感度0.75–0.93、特異度0.60–0.97)は子宮鏡に劣るものの、本研究で子宮鏡により検出された病変の多くは小さく、超音波では同定困難なものとされています。現在エコーも良くなっており、3Dエコーをしっかり確認することで子宮鏡のみで病変が確認できるということはなくなるのではないでしょうか。同時にポリープ、子宮内の明確な癒着、ポリープ、筋腫以外の慢性子宮内膜病変をどのように意識していくことが重要なのでは?と考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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