
はじめに
既往帝王切開と続発不妊との関連はこれまでの研究でも示唆されてきましたが、その背景機序としては癒着形成、子宮内腔液貯留、感染、帝王切開瘢痕欠損(Cesarean Scar Defect; CSD)などが提唱されているものの、明確な因果関係は確立されていません。先行研究の結論は一致しておらず、適切な検出力を持つ大規模集団ベース研究が求められていました。今回、オンタリオ州の全数データベースを用いた大規模レジストリ研究をご紹介いたします。
ポイント
既往帝王切開女性では初回胚移植後の出生率が経腟分娩既往女性と比較して有意に低下しました(aRR 0.84、95%CI 0.80–0.90)。
引用文献
Létourneau I, et al. Am J Obstet Gynecol. 2026. doi: 10.1016/j.ajog.2026.02.025.
論文内容
既往帝王切開がその後の胚移植後の妊娠予後に影響を与えるかを評価することを目的とした、後方視的レジストリベースコホート研究です。
カナダ・オンタリオ州の出産レジストリBetter Outcomes Registry & Network (BORN) Ontarioと、生殖補助医療レジストリCanadian Assisted Reproductive Technology Register (CARTR) Plusのデータを連結して用いました。2013年1月から2020年12月の間に初回胚移植(新鮮または凍結融解)を受けた、20週以上の妊娠分娩既往のある42歳以下の患者7,460名(経腟分娩群4,587名、帝王切開群2,873名)を解析対象としました。代理母使用例、卵子凍結・体外成熟周期は除外されています。Modified Poisson regression modelを用い、採卵時年齢、胚移植時年齢、既往分娩回数、胚移植胚数、移植タイプ(新鮮vs凍結融解)、移植時胚ステージで補正したaRRと95%CIを算出しました。
結果
主要評価項目である初回胚移植後の出生率は、帝王切開群32.7%、経腟分娩群37.3%であり、帝王切開群で有意に低下しました(aRR 0.84、95%CI 0.80–0.90、RD -4.6/100、95%CI -6.8 to -2.4)。副次評価項目においても帝王切開群で全て有意な低下を認めました。具体的には、hCG陽性率(52.5% vs 56.1%、aRR 0.92、95%CI 0.88–0.96)、着床率(36.2% vs 39.9%、aRR 0.91、95%CI 0.86–0.96)、臨床的妊娠率(42.2% vs 45.8%、aRR 0.90、95%CI 0.85–0.95)、継続妊娠率(38.0% vs 42.6%、aRR 0.87、95%CI 0.82–0.92)、good perinatal outcomeを伴う出生率(単胎、37週以降、出生体重2500g以上:27.8% vs 32.8%、aRR 0.82、95%CI 0.76–0.88)でした。
サブグループ解析では、凍結融解胚移植(38.8% vs 42.8%、aRR 0.88、95%CI 0.82–0.94)、新鮮胚移植(20.5% vs 26.6%、aRR 0.75、95%CI 0.65–0.87)のいずれにおいても帝王切開群で有意に低い出生率となりました。
採卵時年齢別では、40歳未満(31.3% vs 36.4%、aRR 0.84、95%CI 0.78–0.90)では帝王切開群で有意に出生率が低下しましたが、40〜42歳(47.5% vs 49.0%、aRR 0.96、95%CI 0.78–1.18)では有意差を認めませんでした。なお40〜42歳の両群の出生率が40歳未満より高くなっているのは、この年齢で再度妊娠を目指す集団が妊孕性の証明された選択的集団であること、ドナー卵子周期が含まれていること、サブグループのサンプルサイズが小さいこと(n=208および177)によると考えられ、著者らも統計的不安定性に言及しています。
帝王切開のタイプ別解析では、共通の対照(経腟分娩既往群全体、出生率37.3%)と比較し、陣痛発来なし帝王切開(n=1,037、31.6%、aRR 0.77、95%CI 0.70–0.85)、陣痛発来あり帝王切開(n=1,836、33.3%、aRR 0.89、95%CI 0.82–0.95)のいずれにおいても帝王切開群で有意な出生率低下を認めました。陣痛発来なし帝王切開の方が点推定値の差は大きい傾向にありましたが、両サブグループのaRRの95%信頼区間は重複しており、サブグループ間の差は統計学的には確認されていません。
私見
肯定派(既往帝王切開で予後悪化)の報告として、Riemma G, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2021では10研究のメタアナリシスで出生率の12%減少が報告されています。Friedenthal J, et al. Am J Obstet Gynecol. 2021では正倍数性凍結融解単一胚移植においても帝王切開既往で予後不良が示され、Gale J, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2022(本論文の共著者による先行報告)、Zhang Y, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022も同様の結論でした。
否定派(CSDがなければ差はない)として、Vitagliano A, et al. Fertil Steril. 2024で、10,000周期以上の胚移植を含むメタアナリシスにおいて、CSDのない帝王切開既往例の出生率は経腟分娩既往例と同等であり、子宮内腔液貯留の有無が予後を規定する因子であると報告しています。Bayram A, et al. J Assist Reprod Genet. 2022では子宮内腔液貯留がない正倍数性凍結融解胚移植においては既往帝王切開の影響を認めず、Wang L, et al. Front Endocrinol. 2022、David MS, et al. J Gynecol Obstet Hum Reprod. 2024(凍結胚盤胞移植)も同様の傾向を示しています。
この論文の面白いところは
- 陣痛発来なし帝切(aRR 0.77)の方が陣痛発来あり帝切(aRR 0.89)より影響が大きい傾向にあるところです。陣痛発来前の選択的帝王切開では子宮下節が形成されにくくCSDが生じやすい可能性があるのでしょうか。
- もうひとつは、新鮮胚移植サブグループ(aRR 0.75)の方が凍結融解(aRR 0.88)よりも影響が大きい点は、卵巣刺激下の高エストロゲン環境がCSD近傍の内膜環境に影響している可能性です。
著者らも考察で言及しているように、本研究で観察された関連性は2つの方向から解釈する必要があります。すなわち(1)帝王切開の結果として生じた因子(CSD、子宮血流変化など)による予後悪化、と(2)既存の併存疾患(子宮内膜症・子宮腺筋症など)が帝王切開リスクと胚移植成績低下の双方に寄与する交絡、です。
今後、注視していきたいと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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