体外受精

2026.05.02

精子DNA断片化はPGT-Aの結果に影響するのか?―胚染色体の正倍数性と男性因子の新たな視点 (Eur J Med Res、2025)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル
精子DNA断片化が生殖補助医療における胚の正倍数性に及ぼす影響:系統的レビューおよびメタアナリシス

英語タイトル
Effect of sperm DNA fragmentation on embryo euploidy rate in assisted reproductive technologies: a systematic review and meta‑analysis

Wan B, 他. Eur J Med Res. 2025 Nov 18;30(1):1138. doi: 10.1186/s40001-025-03402-9. PMID: 41254767.

はじめに

最近では、男性不妊外来を受診される患者の中には、すでにPGT-Aを実施されている方もいらっしゃいます。しかし、PGT-Aにおいて良好な結果が得られない場合、その原因は女性側のみならず男性側にも存在する可能性があります。特に、精子DNA断片化(SDF)は精子の質を反映する重要な指標であり、異常が認められた場合には泌尿器科学的な評価や介入が必要となることがあります。今回ご紹介する研究は、PGT-Aという臨床的に重要なアウトカムとSDF(DFI, DNA fragmentation index)との関連を系統的に検討した点で非常に意義があり、男性因子の重要性を再認識させる内容となっています。

研究のポイント

DFIが30%以上の場合(SCSAで測定)、正常な染色体をもつ胚(正倍数胚)が得られる割合は低くなることがわかりました。
DFIが15%程度では、はっきりとした影響は認められませんでした。
精子のDNAの状態は、胚染色体の正倍数性に関係している可能性があります。

研究の要旨

本研究の目的は、生殖補助医療(ART)における精子DNA断片化(SDF)と胚の正倍数性(正倍数胚の)割合との関連を、系統的レビューおよびメタアナリシスにより定量的に評価することです。 

PRISMA2020ガイドラインに従い、PubMed、Web of Science、Embase、Scopus、Cochrane Libraryを対象に2025年8月5日までの文献検索を実施しました。不妊カップルを対象としたIVFまたはICSI症例で、SDFが適切な方法で評価され、PGT-Aにより胚の染色体状態が判定されている研究を対象としました。研究の質はNewcastle–Ottawa Scaleで評価し、統合オッズ比を算出しました。 

6研究、計1,516周期が解析対象となりました。SDFはすべてSCSAで評価され、カットオフ値は15~30%でした。15%カットオフでは高SDFと正倍数率に有意な関連は認められませんでしたが、30%カットオフではSDF高値(DFI≥30%)は正倍数胚率の低下と有意に関連していました(OR=0.742)。 

以上より、特にDFIが30%以上の場合、正倍数胚の獲得率が低下することが示唆され、精子DNAの質が胚の染色体正常性に影響する可能性が示されました。 

表. DFIと胚の正倍数性の関係(本研究まとめ) 
DFI区分胚の正倍数性への影響解釈
≤15%影響なし正倍数性に差なし
15–30%明確な影響なし中間群
≥30%有意に低下正倍数胚が得られにくい

私見と解説

本研究は、DFIとPGT-Aの結果との関係を体系的に解析した点で、非常に重要な意義を持つと考えます。これまで胚の染色体異常は主に女性年齢に依存すると考えられてきましたが、本研究は男性側の遺伝情報の質、すなわち精子DNAの損傷が胚の正倍数性に影響し得ることを示唆しています。
特に、DFIが30%以上という一定の閾値を超えた場合に有意な影響が認められた点は、臨床的に非常に重要です。軽度のDNA損傷であれば卵子側の修復機構によって補われる可能性がありますが、一定以上の損傷になると修復が追いつかず、結果として染色体異常につながる可能性が示唆されます。
PGT-Aで良好な結果が得られない症例においては、DFIの評価およびその原因に対する治療介入を検討することが、不妊症に対する原因検索や治療戦略の再構築に有用と考えられます。男性因子の評価を軽視することなく、適切な介入につなげることが、ART成績の向上に寄与する可能性があります。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 媒精(IVF)

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 顕微授精(ICSI)

# 精子DNA損傷検査

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

初回体外受精前の子宮鏡検査は出生率を改善する?inSIGHT試験(Lancet. 2016)

2026.07.13

既往帝王切開が体外受精治療成績に与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.07.03

新鮮胚胚盤胞移植後の周産期・小児期予後(Hum Reprod. 2025)

2026.02.10

絨毛性疾患既往歴が生殖補助医療に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.12.02

帝王切開既往女性の生殖補助医療における累積出生率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.11.28

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

「トリガー採卵タイミング」を延ばすと回収卵が増えるか(Reprod Med Biol. 2026)

2026.08.31

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

卵子の大きさ

2025.03.08

「トリガー採卵タイミング」を延ばすと回収卵が増えるか(Reprod Med Biol. 2026)

2026.08.31