
はじめに
ストレインエラストグラフィ(SE)は、組織に用手的な圧迫・除圧を加え、生じる歪み(strain)から組織の相対的な硬さを推定する超音波エラストグラフィ手法で、乳腺・肝・甲状腺・前立腺など多くの臓器に応用されています。SEは婦人科用超音波装置に標準搭載される主要なエラストグラフィモダリティですが、良悪性の内膜病変への応用報告はあるものの、正常子宮内膜を対象とした検討はほとんどありません。子宮内膜は着床に関わる重要な因子であり、その物性を非侵襲的・半定量的に評価できれば、今後の内膜病変研究の基礎データとしての臨床的意義は大きいと考えられます。本研究は、正常女性の子宮内膜弾性をSEで半定量的に評価し、月経周期および年齢による差を検討したものです。
ポイント
ストレインエラストグラフィは月経周期に伴う子宮内膜の硬度変化(分泌期で内膜strain ratioが上昇=より柔らかい)を反映でき、内膜の柔らかさを評価する有用なツールとなり得ます。
引用文献
Shen G, et al. BMC Med Imaging. 2024;24:153. doi: 10.1186/s12880-024-01327-z
論文内容
正常女性の子宮内膜弾性をSE超音波で半定量的に評価し、その価値を検討することを目的とした観察研究です。
2021年11月から2022年12月に320名の女性ボランティアを募集し、最終的に20~40歳の200名を対象としました。組み入れ基準は閉経前で性交歴があり規則的月経周期を有する女性で、子宮内避妊具の使用、甲状腺機能異常・糖尿病、過去3か月以内の手術歴やホルモン薬使用、子宮内膜厚3mm未満、画像不良、経腟超音波で子宮・両側付属器に異常を認める例を除外しました。 装置はVoluson E6・E8・E10(GE Healthcare社)を用い、経腟用腔内プローブRIC5-9-D(5~9MHz)を使用し、全例を同一検者が施行しました。まず「Routine THI」プリセットで2D走査を行い、子宮正中縦断面の最も厚い内膜部位で、子宮内膜厚・内膜エコータイプ(A・B・C型;Gonenらの分類)・内膜血流グレード(0~3)を計測・記録しました。ROI径はすべて3mmに統一し、内膜の3つのROIは3mm間隔、筋層ROIは子宮底部で内膜辺縁から約2mmの位置に置きました。中央の連続3フレームの平均値を内膜・筋層のstrain値として算出し、基準ROI(子宮底部筋層)のstrain ratioは装置が自動的に1に設定しました。最終登録例を最終月経からの時期に基づき増殖期内膜群(83例)と分泌期内膜群(117例)に分け、月経周期間および年齢群間で各指標を比較しました。
結果
増殖期群(83例)と分泌期群(117例)で、年齢・BMIに有意差はありませんでした(いずれもP=0.943)。子宮内膜厚は増殖期群0.82±0.25 cmに対し分泌期群0.99±0.24 cmと分泌期で有意に厚く(P<0.001)、内膜エコータイプは月経周期に伴って分布が有意に変化していました(P<0.001)。増殖期群と分泌期群を比べると、エストロゲン優位の増殖期に多い三本線像(Type A)は18.1%から6.0%へ、中間型(Type B)も73.5%から53.0%へと、いずれも分泌期で減少しました。一方、プロゲステロン優位の分泌期に特徴的な均一高エコー像(Type C)は8.4%から41.0%へと約5倍に増加しました。すなわち、増殖期はType A・Bが大半を占めるのに対し、分泌期ではType Cが大きく増えるという逆転がみられ、増殖期(三本線)から分泌期(均一高エコー)への生理的移行を反映した結果といえます。これに対し内膜血流グレードには両群間で有意差を認めませんでした(P=0.557)。
SE指標では、内膜strain値は増殖期群0.22(0.16, 0.28)%、分泌期群0.22(0.15, 0.31)%で両群間に差はなく(P=0.923)、子宮底部筋層strain値も0.09(0.06, 0.11)% vs. 0.09(0.06, 0.13)%で差はありませんでした(P=0.235)。一方、両群とも内膜strain値は子宮底部筋層strain値より有意に高く(いずれもP<0.001)、内膜が筋層より柔らかいことが示されました。基準の筋層が1なので、内膜strain ratioが大きいほど「筋層に比べて内膜がよく変形する=柔らかい」ことを意味します。本研究では内膜strain ratioが増殖期0.40(0.30, 0.57)に対し分泌期0.47(0.33, 0.71)と分泌期で有意に高く(P=0.041)、これは分泌期に内膜がより柔らかくなっていることを示します。分泌期はプロゲステロン優位で間質浮腫が起こり内膜が肥厚・軟化する時期であり、この生理的変化と整合します。
年齢群(20~29歳 vs. 30~40歳)間の比較では、増殖期群・分泌期群いずれにおいても各超音波指標に有意差を認めませんでした(すべてP>0.05;なお分泌期群ではBMIのみ年齢群間でP=0.005と差を認めました)。
私見
SEは用手的に加圧・除圧して組織の歪み(strain)を測り、変形しやすいほど柔らかいと判定する半定量的手法で、加圧が検者に依存するため隣接組織との比(strain ratio)で相対評価します。SWEは超音波が起こすせん断波の伝播速度を測り、硬いほど速く伝わる原理で、用手加圧が不要で弾性率(kPa)等として定量的・客観的に評価できます。
注目すべきは、周期差の有無をめぐってSWEの先行研究自体が割れている点です。Manchanda S, et al. J Ultrasound Med. 2019. はSWEで月経周期間に有意差を認めなかった(P=0.176)一方、Sun Q, et al. Chin J Ultrasound Med. 2018. および Yu C, et al. Chin Gen Pract. 2020. は分泌期で内膜がより柔らかいことを示しています。本研究(SE)は後者と整合し前者と相違しており、結論の違いは測定する物理量・感度や周期判定法・症例数の差を反映すると考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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