
はじめに
子宮内膜蠕動(endometrial peristalsis)は、内膜直下の筋層がさざ波状に収縮することで生じる内膜の運動で、その頻度・方向・強度はホルモン環境により月経周期相ごとに変化します。子宮内膜蠕動は精子輸送、月経血の排出、胚の着床と初期発育に重要な役割を担い、その速度や方向が通常と異なると不妊や妊娠不成立につながりうると報告されています。子宮内膜蠕動評価法には子宮内圧測定、MRI、経腟超音波(TVUS)がありますが、TVUSは非侵襲・低コスト・安全で最も有用とされる一方、目視評価は主観的で検者の習熟度に依存し、判読に時間を要する点が課題でした。本研究は、光学フロー技術を用いた自動解析アルゴリズムを開発し、目視評価と比較することを目的としています。
ポイント
光学フローによる完全自動解析アルゴリズムは、子宮内膜蠕動の回数・方向・強度・速度を目視評価に匹敵する精度で定量化できそうです。
引用文献
Wang Y, et al. Front Physiol. 2022 Sep 16;13:983177. doi: 10.3389/fphys.2022.983177.
論文内容
光学フロー技術に基づく新規の自動解析アルゴリズムを開発し、子宮内膜蠕動回数・方向・強度を客観的に解析することを目的としています。
中国・北京大学深圳病院の生殖医療センターで2020年10月から2021年12月にIVF-ETを受けた267例を後ろ向きに解析しました。全例が胚移植の5日以内にTVUSによる子宮内膜蠕動評価を受けています。抗コリン薬・抗痙攣薬の使用例は除外し、子宮腺筋症・子宮形態異常・子宮筋腫・ポリープなどの子宮病変例、子宮内避妊具装着例も除外し、最終的に195例が対象となりました。
撮像は外来にある2機種で標準化したプロトコルにより行われました。使用機材はResona7(Mindray Medical Systems、深圳、中国)に2–9 MHzの経腟ボリュームプローブ(DE10-3WU)を組み合わせたものと、Voluson E8(GE Healthcare、米国)に5–9 MHzの経腟ボリュームプローブ(RIC 5-9-D)を組み合わせたもので、いずれも内蔵の動画記録機能を用い、収録ファイルを後にAVI/MP4へ変換しています。
撮像手順は、(1)患者を仰臥位とし体を動かさず通常呼吸とする(呼吸や腸管運動によるアーチファクトは除外)、(2)子宮の縦断面が最大となる断面を描出し検者はプローブを固定する、(3)2分間の動画を収録する、(4)TVUS歴5年以上かつEP評価歴1年以上の医師2名が通常速度の2倍速で独立に判読する、(5)蠕動が出現した際に回数と方向はアルゴリズムと目視の両方で、強度と速度はアルゴリズムのみで評価する、というものです。PACSから抽出したcine超音波画像195本のうち、158本をアルゴリズム開発に、37本を目視・自動解析の両方による評価に用いました。
各指標は次のように定義されています。回数は一定時間内に出現した蠕動波の数とし、方向は子宮頸部と子宮底を結ぶ線を基準に、頸部から底へ(CF)、底から頸部へ(FC)、両方向(CF+FC)に分類しました。速度は1つの蠕動波が始点から終点まで進む経路長(mm)を所要時間(s)で除した値と定義しています。強度は蠕動波形の各ピークについて、蠕動範囲をx軸、振幅をy軸にプロットして判定し、範囲・振幅がともに1未満をweak、いずれかが1を超える場合をmoderate、ともに1を超える場合をstrongと分類しています。
アルゴリズムは光学フロー技術に基づき、内膜領域を矩形で囲んで約15ピクセル間隔の特徴点を配置し、隣接フレーム間の変位から動きを算出、同一行の特徴点を直線近似した際の曲率変化(現フレームと5フレーム前の差Δτ)を用いて、符号を方向、絶対値を大きさとして抽出します。正規化後に閾値α(本実験ではα=0.6)以上を有意な蠕動と判定し、Sigmoid関数で重み付けして蠕動部位を赤色で可視化する仕組みです。統計解析は、連続変数を平均±標準偏差で示し、正規性をShapiro-Wilk検定で確認、回数の比較にWilcoxon符号付順位検定、一致・再現性の評価にICCを用い、SPSS Statistics 26(IBM、Mac版26.0)で実施しました。
結果
子宮内膜蠕動回数は正規分布に従いませんでした(Shapiro-Wilk検定、p=0.000)。目視評価による回数は医師1で4.2±2.3、医師2で4.1±2.2(mean±SD)、アルゴリズムでは初回3.6±2.1、再評価3.7±2.0でした。アルゴリズムと目視評価の間には有意差が認められました(p=0.001、0.002、0.003、0.008)。
2回のアルゴリズム計測の再現性は良好で、ICCは0.97でした。アルゴリズムと目視の一致も良好で、医師1とのICCは0.84~0.96、医師2とのICCは0.87~0.96、医師2名間のICCは0.92~0.98でした。方向別では、アルゴリズムによるCF・FC・CF+FCはそれぞれ50・52・32本、目視ではそれぞれ43・45・46本でした。EP回数は2回のアルゴリズム計測間で87%が一致し、アルゴリズムと目視の完全一致は79%、医師2名間の一致は66%でした。アルゴリズムが評価した子宮内膜蠕動強度は平均2.6±1.1、蠕動速度は平均0.147(0.07)mm/sでした。完全自動解析アルゴリズムは、目視評価に匹敵する形で子宮蠕動を定量化できると結論づけています。
私見
子宮内膜蠕動異常と病態の関連としては、慢性子宮内膜炎で子宮収縮性が変化するとの報告もあります(Pinto V, et al. Fertil Steril. 2015)。
注目すべきは、アルゴリズムの回数が目視より少なかった点です(3.6 vs. 4.2、有意差あり)。差の多くがCF+FC波で生じており、目視はCF+FCを2回と数える一方アルゴリズムは1回と認識したためで、時間分解能において視覚がアルゴリズムに劣る可能性を示唆しています。臨床的には「回数の絶対値」そのものよりも「再現性のある一貫した計測ができること」が重要であり、ICC 0.97という再現性はルーチン評価への応用可能性を支持すると考えます。
方法論の観点では、撮像が縦断最大断面・2分収録という比較的単純なプロトコルで標準化されている一方、フレームレートの記載がなく、月経周期相の規定や膀胱充満などの患者準備条件、2機種間の機種差を分けた解析は示されていません。子宮内膜蠕動は周期相により変化するため、評価時期の規定は今後の前向き研究で重要になると考えます。今後は子宮内膜蠕動指標と着床率・継続妊娠率を組み合わせた前向き研究が待たれます。なおアルゴリズムは実験段階であり、複雑な処理工程や体動アーチファクトの解決が今後の課題です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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